【凹作】
=6/11=
アーバンクワの道を歩む我々に休息は無い。 常日頃からムシの気配に耳をそばだてて、いつ如何なる時でもウルトラショートクワ採行を試みる姿勢は崩さないのだ。
前夜の惨敗からまだ立ち直れぬまま夜を迎えてしまいました。
この頃、凹作さんは何でスーパーの駐車場になんか行くのですか?と聞いてくる人が多い。(嘘)
もちろん、そこにスーパーの駐車場があるからですと答えるのですけれど、 敗戦覚悟で臨むクワ採行は、さすがにちょっと気が重いのであります。
しかし、ここでこのまま結果を出さずに終わることの方がもっと拙いのでありまして、 結果さえ出れば、皆様から『へぇ〜』という賞賛の言葉を頂けるのですから、 唯の『へ』である今の状況に『ぇ〜』を付けてもらえるように何回でも通うしかないのであります。
4万円もツッ込んでしまった台から離れられなくなっているパチンカー状態なのでありまして、 「嫌ならやめれば?大人なんだから判るでしょ?」と言われても判らないのが、 凹作と負けが込んだパチンカーさんなのであります。
という訳で、今日は近所のスーパーの屋上へ会社帰りに寄ってみました。
スーパーに入るなり、聞きなれた館内放送が耳に入ります。
「お子様のローラーシューズは危険ですので」なぞと言っているのです。
ふっ、盲点だな。
ローラーシューズのマスメディア攻勢が皆無であった2年前の横浜で、 黎明期唯一の宣伝媒体としてスーパー内をこのシューズで闊走していたのが凹作の子供達と凹作なのです。
「お子様、及び、お凹作様のローラーシューズは・・・」ってやらないのですから、 お凹作様だけは闊走特権が認められているように聞こえてしまいます。
このスーパーの本社へ先日転属となった従兄弟のゲンちゃん辺りなら、
「凹兄ちゃんはお子様に含まれてるんだよ」なぞと屁理屈を言い出しそうですが、 法律上は成人男子と認められている凹作なのですから、それは詭弁というものです。
おぉ!そうだ。 ゲンちゃんに頼んで『○○店・屋上昆虫採集許可証』を作ってもらおうじゃないですか!
ううむ、でも、あんまり無理ばかり言ってると、横浜スタヂアムのG戦に連れて行ってもらえなくなるから、 残念ながらこのアイディアは没なのです。
過去2回のここでの活動で蓄積したノウハウもあることですし、やはり正攻法で行くのであります。
前回開発した、『カミサンの買い物に付き合っているうちに会社から電話がかかって来てしまい、 屋上で難しい仕事の話をしているお父さんを装いながらの採集』作戦の開始であります。
さて、ノウハウ通りに携帯電話をかけているみたいに耳にあてて、、、っとっとっと。
本物です。 本当に必要があって屋上で携帯電話を耳にあてている人が其処に居るのであります。
(必要無く耳にあてているのは君くらいなもんだよ> 凹)
しかも、感情も豊かに滑らかな言葉を使って見るからにちゃんと話をしています。
(君以外の全員がそうしているよ> 凹)
本物を目の前にしてしまうと、どうも電話をかけるフリというのがやり辛いのです。 なんだか、こっちが演技しているってのを全て見透かされているような気になってきます。
あっ、やっぱりコチラを訝しげに睨んでいます。
(君がチラチラと相手を見るからだよ> 凹)
「!」。 そうです。こっちも負けずに声を出して話しをしているフリをすれば良いのです。
「どういうことですか?」。 「うん、うん...」。 「そうですねぇ...」。 「ええ、ええ...」。
やってみると意外に良いのです。 敵を騙すにはまず味方からなのです。 こうやって言葉を口にしていると、なんだか本当に自分が電話をかけているみたいな気になってきて、 気兼ねなく採集に集中できます。
『電話をしている最中の遊んでいる両の足を、なんとなく歩き回ることであやしている大人』そのものなのであります。
完璧です。
ほら、もう、あの人もコッチを睨んではいない。
ようやくペースを掴んできて辺りを見回すと、今夜はなんだか羽蟻が多いのです。
スーパーの一番高いところにある看板の周りなぞは、小虫がブンブンとたかっているのが遠目でも判ります。
さすがにその天辺に昇ってやろうという勇気はなく、足元やブロックの下なぞを覗くに留まってしまいます。
(君に勇気が備わったような人を犯罪者又は不審者と呼ぶのだよ> 凹)
何度しゃがみこんでブロックの下を覗いてみたことでしょうか。 それでも居るのは羽蟻ばかりであります。 だんだんと眉間の皺が深くなるのが、自分でも判ります。
何個目のブロックだったでしょうか。 偶然のシンクロが起こったのであります。
眉間の皺。諦め気味にしゃがみこむ動作。そして、「どういうことですか?」という台詞。
この三点セットは、まさに、
『本部長から直々に難題を持ちかけられて、そのオモリに辟易としているヤリ手課長の姿』さながらであります。
これでもう、ブロック下の覗き込み術も完璧です。 ここでの採集ノウハウがまた一つUPしたと言わざるを得ません。
今日のところは羽蟻しかいなくても、今後につながる大きな一歩なのであります。
と、大いなる進展を見せたところで、頃合も良くなり、本日の活動は終了です。
意気揚揚と駐車場を去り、売り場フロアを抜けようとすると、またあの「ローラーシューズは・・・」が流れています。
せっかくこのポイントを牛耳る中枢に身内が潜り込んでいるのですから、 売上アップの為に、ひとつ提案をしてあげなければならないのです。
「屋上でのお子様のオオクワガタ採りは大変危険ですのでお止めください」ってアナウンスをすれば良いのです。
まずは、オオクワが『居る』って嘘をついている訳ではありませんから、ゲンちゃんにはお咎めはないはずです。 そして、オオクワの響きにつられた「俺は子供ではない」と主張する正論派が詰め掛けてついでに買い物もしていってくれるって訳です。
ただし、このスーパーの商圏内に正論派が何人いるのかとか、 そもそもスーパーでクワをやろうなどという蛮勇を奮える人間が何人いるのかは要調査であります。
でも、きっと、人はそこにオオクワの幻影を見るのです。
今はまだ全く見えない朧な陰も、大衆が口にし始めると勢いをまして具現化し始めるのです。 初めは奇異に見られていたローラーシューズが、今ではごくアタリマエの遊具になってしまったように...フッフッフッ。
「有り得ねぇ」。
自宅マンションの入り口に差し掛かかり、ごく普通のパパ・凹作の正気が蘇ったその目に、 ポチンと小さな甲虫が映ります。
ほうら、散々宝を探し回ってみても、案外意外なところに落ちてるもんさ。
小金無視(虫言葉は、小銭や ささいな事柄、屁理屈や詭弁を意に介さない)を大事にiShotする凹作なのでありました。
=結果=
ボーズ/(妄想癖がUPしていくのがチョット気がかり)