平成15年度第1回簡裁訴訟代理能力認定考査

考   査   問   題


第1問 別紙記載のX及びYの言い分に基づき、以下の小問(1)から(6)までに答えなさい。
小問(1) Xの訴訟代理人として、Yに対して訴えを提起する場合の主たる請求の訴訟物を解答用紙(その1)の第1欄に記載しなさい。
小問(2) 小問(1)の訴訟(以下「本件訴訟」という)において、Xの訴訟代理人として主張すべき主たる請求の請求原因事実を解答用紙(その1)の第2欄に記載しなさい。
    なお、腕時計を特定することが必要である場合であっても、単に「腕時計」と記載すれば足りるものとする。また、いわゆる「よって書き」は記載する必要がない。
小問(3) 本件訴訟において、Yの訴訟代理人として行うべき主たる請求の請求原因事実に対するYの認否を解答用紙(その1)の第3欄に記載しなさい。
小問(4) 本件訴訟において、Yの訴訟代理人として、Yの言い分から構成することができる抗弁を解答用紙(その1)の第4欄に記載しなさい(例えば、「弁済による貸金返還債務の消滅」等と記載すれば足り、言い分に基づいた個々の具体的な事実を記載する必要はない。)
小問(5) 本件訴訟において、X側が書証として提出したXの言い分3記載の書面について、Yの訴訟代理人は、「成立を否認する。」とだけ述べた。このY訴訟代理人の訴訟行為の意味及び問題点を解答用紙(その1)の第5欄に200字以内で記載しなさい。
小問(6) 本件訴訟において、Yの訴訟代理人として、どのような立証活動をすべきかを解答用紙(その1)の第6欄に箇条書で記載しなさい。


第2問 司法書士Aは、原告の訴訟代理人として、訴訟の目的の価額(以下「訴額」という。)が90万円以下の訴えを簡易裁判所に提起したが、その訴訟の係属中、被告から、90万円を超える訴額の反訴が提起された。この場合、司法書士Aが原告の訴訟代理人として当該反訴に関し訴訟行為ができるかどうかについて、その結論及び理由を解答用紙(その2)の第7欄に150字以内で記載しなさい。


第3問 司法書士Aは、Xの訴訟代理人として、Yに対する売買代金支払請求訴訟を追行していたが、その訴訟の係属中、Yから、訴外のBに対する貸金返還請求訴訟の訴状を作成して欲しいと言われた。この場合、Aは、これを受任することができるか。Yからの依頼が、Bとの間で締結された土地の売買契約に基づく所有権移転登記手続の代理申請である場合は、どうか。その結論及び理由を解答用紙(その2)の第8欄に150字以内で記載しなさい。


(別紙)
〔Xの言い分〕
1 私は、以前、ディスカウントストアーとして有名なお店で、希少価値のある海外の有
 名ブランドの「SX100」というモデル名の腕時計を偶然見つけ、50万円で購入しました。
2 その後、平成15年5月3日に、たまたま知人のYの家を訪れる機会があり、私は、Yが希少価値のある高級時計の収集を趣味にしていることを知っていたので、この腕時計をして赴いたのです。あいにく、Yは不在で、その息子(20歳)であるZと話をしていたところ、Zから、「そのSX100の腕時計は、父親であるYがかねてから探していたものであるので、ぜひYに譲ってやってくれないか。」と懇願されました。私は、買った値段よりも高く買ってもらえるなら売ってもいいと思い、Zに対し、「Yは知人であるし、60万円くらいでなら、このSX100の腕時計を売ることはできると伝えておいてくれ。」と言いました。
3 その翌日、Zが私の家を訪ねて来ました。Zは、Yの氏名の記載及び氏の印影のある書面を持って来ていて、その書面には、「腕時計(SX100)を60万円で買います。」と記載されていました。私は、Zがその書面を示して、「Yが、60万円でいいから、そのSX100を譲って欲しいと言っている。」と言うので、Yに売ることとし、その腕時計をZに渡しました。代金については、Zが、「Yが振込みにさせて欲しいといっている。」と言うし、その書面にも、「代金は直ちに振り込みます。」と記載されていたので、私の銀行口座の番号を教えました。
4 ところが、Yは、それから1か月以上が経っても、振込みをしてきませんので、私は、Yに対し、直接、催促をしたのです。ところが、Yは、自分はそんな腕時計を買っていないとか、その腕時計がSX100の偽物であったなどと言って、支払をしようとしないのです。腕時計がSX100の偽物であるはずがないのですが、購入先のお店も既に倒産してしまって、私にはどうしようもありません。
5 Yには、約束をした以上、直ちにお金を支払ってもらいたいと思います。

〔Yの言い分〕
1 Xの言い分1は、私は知りません。Xの言い分2及び3は、私にはよく分かりませんが、息子のZの話によると、XとZとの間で、Xがいうようなやりとりがあったことは事実のようです。
  なお、私が趣味で希少価値のある高級時計を集めており、SX100というモデル名の腕時計を探していたというのも、事実です。
2 また、Xの言い分4のうち、私がXからの督促に応じていないのも事実ですが、私には、そのようなお金を支払う理由は、全くありません。といいますのは、私は、Xが言うような腕時計Xから買ったことはありませんし、Zに対して、腕時計を買うとXに言って来てくれなどと言ったこともないのです。Xの言い分3の書面は、Zが勝手に私の印鑑を使用して作ったようです。
3 しかも、Zの話によると、Zがその腕時計を正規の輸入代理店で見てもらったところ、海外の土産物屋などで安く売られているSX100の偽物であり、60万円の価値など全くないということが分かったというのです。もちろん、仮に、私がその腕時計を買うとしても、偽物と分かっていれば、買うわけがありません。
4 腕時計については、おそらく今も私の家にあると思いますが、こんな偽物はもちろんいりません。
5 Xに対しては、私に対して確認もせず、しかも、こんな偽物を高額で売りつけようとしたということで、とても憤っており、ましてや60万円を支払えなどとは、言語道断であると思います。


平成15年度第2回簡裁訴訟代理能力認定考査

考   査   問   題


第1問 別紙1記載のX及びYの言い分に基づき、以下の小問1から7までに答えなさい。
小問1 Xの訴訟代理人として、Y及びZに対して訴えを提起する場合の訴訟物を解答用紙(その1)の第1欄に記載しなさい。
小問2 小問1の訴訟(以下「本件訴訟」という。)において、Xの訴訟代理人として主張すべきYに対する請求の請求原因事実を解答用紙(その1)の第2欄に記載しなさい。
    なお、いわゆる「よって書き」は記載する必要がない。
小問3 本件訴訟において、Yの訴訟代理人として行うべき請求原因事実に対するYの認否を解答用紙(その1)の第3欄に記載しなさい。
小問4 本件訴訟において、Yの訴訟代理人として主張すべき抗弁及びその要件事実を解答用紙(その1)の第4欄に記載しなさい。
小問5 本件訴訟において、Xの訴訟代理人として主張すべき再抗弁を解答用紙(その1)の第5欄に記載しなさい(当該再抗弁の要件事実は、記載する必要がない。)。
小問6 本件訴訟において、X側が書証として提出したXの言い分3記載の借用書について、Yの訴訟代理人は、「成立を否認する。」と述べたため、裁判所は、Y訴訟代理人に対して「このY名下の印影は、Yの印章によって顕出されたものですか。」と釈明を求めた。この裁判所の求釈明の意味を解答用紙(その2)の第6欄に150字以内で記載しなさい。
小問7 本件訴訟において、Zに対する訴状等の訴訟関係書類の送達は、どのような送達によって行なわれることになるか。また、その場合のZに対する請求原因事実の立証の要否及びその理由について、解答用紙(その2)の第7欄に記載しなさい。


第2問 第1問記載の事例において、貸付金額が50万円であったときは、司法書士A(簡裁訴訟代理関係業務を行うのに必要な能力を有する旨の法務大臣の認定を受けているものとする。)は、Xの訴訟代理人として、Y及びZに対する請求を併合して訴えの提起をすることができるか。その結論及び結論を導くに当たって検討した問題点を解答用紙(その2)の第8欄に150字以内で記載しなさい。
なお、解答に当たって適用すべき法令は、平成15年12月6日現在適用されるべきものとする。

第3問 第1問記載の事例において、Zが行方不明でないとき、司法書士B(簡裁訴訟代理関係業務を行うのに必要な能力を有する旨の法務大臣の認定を受けているものとする。)は、Xが原告となってY及びZを被告として提起した訴訟について、Y及びZ両名の訴訟代理人となることができるか。その結論及び理由を解答用紙(その2)の第9欄に150字以内で記載しなさい。


(別紙1)

〔Xの言い分〕
1 私は、会社員をしている者です。かなり以前の話になるのですが、個人で印刷業を営んでいた友人のZにお金を貸したことがあり、その返済を受けられずに困っております。
2 私とZとは、小学生以来の同級生というよしみで親しく付き合ってきた仲でした。
Zは、新しい設備を次々と導入するという経営手法を採っており、以前は経営も順調のようでしたが、最近の不況で苦しくなってきたようです。そのような折、平成10年9月末ころ、久しぶりに会った際、運転資金が足りないので、少なくて構わないからお金を貸してくれないかと頼まれたのです。私の方も決して余裕があったわけではないのですが、Zが可哀想になり、手持ちの40万円を貸すことにしたのです。
3 同年10月1日になり、Zは、私の所を訪ねてきて、借用書(注:別紙2に記載の借用書)を持って来ました。私は、この借用書にZの署名押印があり、更に「連帯保証人」としてYの署名押印がありましたので、40万円を渡しました。
  なお、返済の時期については、特に合意しなかったのですが、私としては、当然、返済の原資が出来次第、直ちに返済してくれるものと思っておりました。
4 ところが、Zの経営は一向に上向きとならなかったようで、その後も何度か顔を会わせた際に返してくれるように暗に言ってきたのですが、のらりくらりして、返済してくれる気配はありませんでした。
平成15年の8月末日、いよいよZの経営が行き詰まったとの噂があったことから、私は、Z宅に赴き、はっきりと返済を求めたのですが、Zは、言を左右にして取り合ってくれませんでした。
5 その後、Zは、夜逃げをしてしまったようで、その行方は分かりません。
そこで、私は、同年11月中旬ころ、保証人であるY宅を訪れ、Yに対して借用書を示して返済をお願いしたのですが、そのような書面は知らないとけんもほろろで、平成15年12月6日現在、支払ってくれていません。

〔Yの言い分〕
1 Xの言い分のうち、Zが個人で印刷業を営んでいたことは間違いないことですが、XがZにお金を貸したことについては、私の預かり知らないことです。
2 また、Xの言い分2のうち、私の息子であるZがXと小学校以来の同級生で親しかったこと、Zの経営が平成10年ころから苦しくなっていったことは私も聞いており、間違いないことと思いますが、二人の間にお金の貸借があったということについては、何も聞いていません。
3 Xの言い分3の借用書については、私はこれまで見たこともありませんでした。確かに、ここに押されている印影には私の印章が使われておりますが、私がこの署名や押印をしたことはありませんし、そもそも連帯保証したということもありません。
なお、Z名義の署名押印部分については、Zのもののようにも見えますが、よく分かりません。
4 Xの言い分4のうち、平成15年8月末日ころにはZの経営が行き詰まったようであることは間違いないと思いますが、その他の事情については、私には全く分かりません。
5 Xの言い分5にありますように、Zは一家で夜逃げをしたようで、Zが住んでいた家も借家で財産も全く残っておりません。先週の平成15年11月末にZから私に電話があり、元気にやっているとの連絡はありましたが、どこにいるのかは教えてくれませんでした。
Xから同月中旬ころに借用証を見せられ、返済を求められたのは確かです。ただ、仮にZが本当にXから借金をしていたとしても、既に独立して私とは別に一家を構えているZのしたことですし、私も現在は年金暮らしで生活に余裕はなく、私自身もZに対して多額のお金を貸しているものですから、私の関知しない件について、「はい、そうですか。」と支払うことはできません。


(別紙2)

借  用  書
   X  殿
金四拾万円也
 但し、借受金として、本日正に収受しました。
 平成10年10月1日
○○印刷所Z  印
連帯保証人Y  印