北村事務所 行政書士の職域は? 上へ


 以前勤めていた頃,アルバイトの女の子が読んでいる本を覗いたら,行政書士試験の問題集だった。
「今年,受けるんです」と彼女はにっこり笑った。
地味というかオジン臭いイメージの行政書士を若いギャルが目指していることに驚いた記憶が残っている。
 
 最近,ある女性と話す機会があったが,彼女も行政書士試験のための講座にン十万円もの費用をかけて通っているという。「行政書士」という資格が若い女性の心を捉えてしまうのだから,予備校の行政書士宣伝の謳い文句は知らないが,余程腕の良い広告代理店がついているのだろうか。彼女には行政書士の観念的な職域は広いが,お金が貰える実際の仕事は限られていることから,「生活のためなら,然るべき会社に勤めた方がよい」旨をアドバイスした。
 
 2,3日後,行政書士会から一通の封書が届いた。研修会の案内かと封を開けると,自己破産申立書を作成した行政書士に対する依頼者からの債務不存在確認と損害賠償請求訴訟の鹿児島地裁判決(平成17年1月13日言渡)が入っていた。

 判決は,「行政書士が報酬を得る目的で業として契約を締結して破産申立てに関する書類作成等の行為を行うことは,弁護士法72条に違反する行為であって,それらを目的とする契約は,それが破産手続に関するという事実のみによって無効となるのを免れない」と判示している。この判決は民事事件であるが,弁護士法第72条違反(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金)の事実認定がされたのだから,今後刑事事件の成否がどうなるか鹿児島県弁護士会と鹿児島地検の動向を注視したい。同時に,鹿児島県知事は当該行政書士に対して行政処分を行うのか否か,亦どのような行政処分を行うのか。鹿児島県は勇猛果敢な薩摩隼人の国だから,担当者が行政処分の起案をすれば地方課長や総務部長さんは即刻決裁するに違いない。

 本件は,依頼者(原告)が行政書士(被告)に追加報酬を再三請求されたことから弁護士に助けを求め,その結果,訴訟になったので,たまたま公になったが,こういう事例はこの一件だけではあるまい。日本行政書士会連合会(以下「連合会」という。)は,そのホームページでこの事件について会の見解を発表し,適法な業務の推進方を周知徹底云々と語っているが(最近はやりの「再発防止に努める云々」の類である),他方,連合会発行の機関誌「月刊 日本行政」では,「行政書士向け優良書籍等のご案内」として「破産の法律相談」や「新・破産法の手続と実務Q&A」という書籍を会員特価で販売する旨広告しているが,このことを連合会はどう説明できるのだろうか。確かに,この書籍の広告主は「有限会社全行団」であって,連合会ではない。しかし,連合会発行の機関誌中の広告で,連合会の事務所と同じ所在地にある会社が広告主である。
 
 行政書士会の執行部は,行政書士の地位向上や職域拡大に鋭意努力しているが,一部であろうが会員が非弁行為をしているようでは,到底司法参加は無理だろう。というより,本来,「行政庁」相手が仕事である行政書士が,どうして「簡易裁判所での訴訟代理権」を要求するのか,理解できない。司法の仕事をしたければ,司法試験か司法書士試験を受けて弁護士なり司法書士になるべきではないだろうか。司法書士会は,いまだかつて税理士や弁理士の専管である税務申告の代理権や特許出願の代理権を要求したことはないのだが……。