北村事務所 裁判事務 上へ



 今年の3月に簡裁訴訟代理権を得てから約4ヶ月が過ぎたが,仕事では簡裁には一度も行っていない。行くのは地裁3階の民事部である。

 エレベータを下りて突き当たりを左に曲がると直ぐ右手に民事執行係があり,競売物件の所謂三点セットを閲覧している人々が透かしのガラス戸越しに見える。競売物件の閲覧者というと怖い顔をした小父さんばかりかと思ってはいけない。不動産会社の事務員だろうが,可愛いギャルも来ており,閲覧席に座って,せっせとノートに要点をメモしている。

 廊下を先に進むと,前方に廊下の壁に寄せてベンチが置いてあり,この向かいの部屋が破産再生係の事務室である。破産や民事再生の申立書は,この部屋に提出する。

 ベンチには,曜日によっては何人かが,何かを待っているような表情で元気なく座っている。中には顔を上げて溜め息をつく青年がいる。別な日には,ミニスカートからスラリとした脚を見せてベンチに腰掛けている制服姿のOLに,司法書士のおじさんはドキリとする。俯いて座っているので表情は分からぬが,「ブランド品に夢中になったな!」と司法書士のおじさんは経験的に判断する。

 破産再生係の前のベンチに何人もの人が座っている日は,裁判官による破産者の審尋の日である。
 クレサラ多重債務者の相談を受ける度に,安易に借りた奴も悪いが,定期預金の利率が1パーセントにも満たない時代に,堂々と約30パーセントもの高利で金を貸せる法制度を温存している政府や政治家に腹が立つ。

 国会議員は,直ちに利息制限法第1条第2項を最高裁判例の趣旨に従って改正せよ,貸金業規制法第43条(みなし弁済)を削除せよ!

 司法書士のおじさんは,このように心の中で叫びながら,エレベータホールを抜けて民事訟廷係へ行き,貸金請求事件の訴状を提出すると,廊下を戻って階段を1階に降り,自販機でドリンクを買って飲む。
 「これで,取り敢えず一段落じゃな」
 ……訴訟事件は,兎に角全能力を駆使するから,しんどい。一般的な訴状や準備書面の書式はあるが,事案が見本と異なるから具体的な訴状や準備書面の内容は皆オリジナルである。しかし,頭の体操にはなる。「お金は使うな。頭は使え!」