大学受験の戦略(試作版・・まだ草稿段階)

 

 僕は理系の受験経験や指導経験しかないので、文系について語ることはできません。以下ではSEGやEDUCAでもっとも標準的な国公立理系(センター英数国理社、2次英数理理及び国or小論を基本とする)について、比較的効率のよい(と僕が思う)受験戦略を理数を中心にアドバイスしたいと思います。

 

<大学が望む学生>

僕が現役のときの東京大学の募集要項には、「教科書の範囲が当たり前にできれば、本学の入学は決して困難ではない」という意味の記述があり、「んなわけねーだろ」と思った記憶があります。しかし、自分がそこに大学院を含めて9年も通い、そこでいろいろな先生に出会い、見聞した限りに於いては、どうやらその記述は正しいように思うのです。

確かに教科書の問題が出来るだけでは東大には合格できないでしょう。しかし、それは知識量が足りないからではなく、解き方を憶えただけで教科書に出てくることの意味を理解できていないからではないでしょうか。(とりわけ理数では)問題を解くとき、「どうしてその方針をとるのか?」「いったい何が明らかになったのか?(何が問われているのか)」を理解していない学生は、大抵の場合応用問題=入試問題を解くことができません。

 応用問題を出来るようになる戦略としては、

1「より高次の項目まで憶えてしまう。出題パターンを全部おさえてしまう」という方法と、

2「出てくる基本事項のひとつひとつを、どうしてなのか、何が問われているのか納得していく」という方法が考えられます。実際にはこの2つは相反するものではなく、基本事項がなぜなのかを考えているうちにより高次の項目が必要になることもあるし、パターンを全部おさえると基本事項が理解できるということもあるのですが、多くの受験生は「早く全範囲を網羅すること」「ライバルの知らないことを知っていること」(つまり1の戦略)を重視し過ぎて、「基本事項をきちんと理解すること」(つまり2の戦略)を軽視し過ぎるように思います。

実際に大学に入ってしまうと、正解がまだないことを考えていくのですから、必要になった項目は猛烈に勉強していかないといけません。だからちょっとした先取り知識の有無なんか大した意味はないし、考えることさえできれば知識はあとからどうにかなる場合が多いのです。だから、大学は、既に大学の範囲まで知識があるだとか、あらゆる受験パターンを網羅しただとかではなく、きちんと考えることができる学生を望みます。やる気のある大学の入試問題はそういう観点で作られていますし、またそういう観点(きちんと考えているか)で採点がなされるので、同じ問題であっても予備校などの「受験界」の採点基準とはしばしば異なる評価になるのです。

だとすれば、受験の基本戦略は、「基本事項の一つ一つをしっかり理解する。概念をきちんと把握する」ということにあるはずです。確かにその理解のために高校範囲を超える内容が必要になる(たとえば化学の電子配置でKLMNだけでなく、spdf軌道も知っておいた方がきちんと理解できる)こともありますが、あくまでも基本は「なぜか」を追いつめることにあるのであって、教科書より高度なことを知っておくことではないはずです。(確かに早い時期から高校範囲+αを網羅的に学習する方法がないではありませんが、時間対効果ということを考えると、その分好きなことをやった方がよいのではないかと思います)

 

<時間配分>

 このような観点からみると、進度の点では「慌てず」、しかし「しっかりと」理解していくことが理想的です。受験に知識は必要ですが、その前に基本項目をしっかり納得できていないとせっかくの知識も役に立ちません。また、基本項目をしっかり理解できていれば、それに乗っ取った知識も比較的楽につけられる筈です。

 だから、学習の順序としては、基礎の理解→知識の取得(その知識の中で基礎を確認)がおすすめになるわけです。これは一科目の中でもそうだし、(英語や)数学のような基礎的な科目は、理科のようなそれを応用する科目よりも先にしっかりさせないといけないことになりますね。

 僕の専門は理科ですが、化学は中学数学+数Tのきちんとした理解がないと厳しい科目です。だから、大学受験レベルの化学を学び始めるには、中学生では早すぎ、一貫校の進度なら高1、公立校の進度なら高2以降が良いと思います。物理は微積分が手に入っていないと不利なので、一貫校の進度でも高2以降にやるのがお勧めです。

 そして、同じ科目の中でも、まずは基本概念の理解に重きをおくべきでしょう。化学でいえば、まずは理論をやるべきで、無機・有機は高2の終わり以降で充分だし、きちんとやるなら高3の夏からでも間に合います。そして無機・有機の個々の知識(たとえばMn2+の色とか)は、高3の秋以降、極論すれば12月からでも構わないでしょう(あんまり早くにやると忘れるし)。

 言い換えれば直前期は理科に時間をかけるべきなので、英語や数学は早期に仕上げておくのが望ましいですね。以下に具体的に述べましょう。

 

<中学生>

中高一貫校の中学生には高校受験がないので、目先にとらわれない学習ができるはずなのですが、実際にはどうも「よくできる」子を目指す挙げ句、すべての科目を記憶科目として処理し、解き方をひたすら憶えることばかりに関心を持つ生徒が多いように思います。実際、その方が目先の成績が伸びるからタチが悪いのですが、この時期は、「考える面白さを手に入れる」べき時間だと思います。好きな分野があれば(それがあまり「役に立」たなそうでも)徹底してのめり込めばよいでしょう。科目別では英数に重点をおきましょう。国語は、よい点にならなくてもよいので、いろんな本(漫画とかでもいい)を読み、関心事を拡げていくことが大切です。理科はどうでもよいです。

 

<高1>

 依然として英数に重きをおくべき時間ですが、数Tが終わっていれば高1のはじめから化学や生物をはじめても良いでしょう。SEG/EDUCAの高2クラスや高3速習クラスの講義にも充分ついていけるはずです。この時期に理科を1つはじめると、随分余裕のある(ということはきちんと学べる)受験生活を送ることができるはずです。数Tが終わっていなければ理科はもう少し後でもよいでしょう。この段階でも、あくまでも「考える面白さ」が優先です。うまく点数をとることを慌てない方がよいでしょう。

 

<高2(秋まで)>

 できれば理科を一つは高2のはじめからはじめたいところです(理科を全部高2の終わりとか高3からはじめると英数が完成していない場合は時間的に大変)。化学はこの時期なら公立校の数学の進度でも大丈夫だし、数U微分が終わっているなら物理をやるのも楽しいです。数学の考え方が理科の中で具体的に生きるのはとても愉快ですよ。

 そうはいっても、この段階での理科は概念の理解が中心であるべきで、個々の知識などは後回しで大丈夫です。時間配分としてはまだまだ英数に置くべきでしょう。この時期までに数学が一通り片づいているのが理想的で、高3では(特に夏以降は)演習に入りたいところです。

 

<高2冬〜高3夏>

 この時期には理科をすべてはじめていないといけません。といっても慌てることはなく、基本概念をきちんと納得することにつとめましょう。秋からはとにかく理科に時間を割きたいので、英数をこの段階で一通り完成するのが理想です。

 

<高3夏〜高3冬>

 理科に過半の時間を割くべき時期です。化学でいえば無機・有機のような記憶分野に入ります。とはいえ、基本概念の納得を忘れることなく。センターや2次の過去問もはじめないといけません。大変ですが、息が詰まるといけないので適度な息抜きもしましょう。

 

<高3冬〜直前期>

 センター社会や理科の細かい記憶モノをやるべき時期です。また、どの科目も基本概念の抜け落ちに気を付けましょう。

 

<苦手科目について>

僕は英語が猛烈に苦手でした(今も外国語全般が超苦手)。それでも高2の前半まではなんとかあがいていましたが、自分にとって意味の判らないことを記憶するのがあまりに苦痛だったので高3になる前に放棄してしまいました。今にして思えば、楽しい科目以外の勉強をしたくなかっただけなのですが、当時は「英語が0点でも他の科目だけで合格点まで稼げばいいんだ」と本気で思っていたのです。云うまでもなくそれは大変でした。受験戦略としては大失敗です。たとえ英語の習得能力が人より低くても、それでも全然苦手な(つまり全く未開拓の)科目で10点とる方が、それなりに得意な(そこそこ開拓済みの)科目でもう10点上げるよりは圧倒的に楽だっただろうと思います。

まあそれでも入試はクリアしたのですが、むしろ問題はその後でした。自分では「俺は理科(など)がやりたいのであって、英語がやりたいのではない。なんで英語なんかが出来なければならんのだ」と思っていたのですが、出来なきゃいけないんです。論文は英語で書くのですから、いや、それはもう悲惨でしたよ。

理系でも英語と国語は必要です。国語力は外国語以上に大事かも知れません。自分の思考を言語化できない人の論理なんて使えません。あなたが本当に理系のなにごとかをやりたいなら、受験科目を減らすことなど考えずに勉強しましょう。それは(入試だけでなく)ちゃんとあなたの未来に繋がります。勿論試験そのものは得意科目の配分の高い大学を選べばよいのですが、勉強の間口を狭めてもいいことはありません。

 

<小論文などについて>

高度ななにごとかを正確に議論するには多少の難しい言葉は必要かも知れません。しかし、本当に理解しているなら可能な限り平易に話す(書く)ことができるはずです。自分に自信の無い人は必要以上に難しい言葉を使いたがりますが、当人ですら意味が怪しい言葉を聞かされる側は何を云いたいのか全然判らないでしょう。

入試は既にその学問を修めた人が受けるのではなく、これからその学問を学ぼうとする人が書くのです。そこには意欲と将来性は現れないといけませんが、「判ってもいない小難しいこと」は要りません。                                                                                                                                                                                                                    (つづく)