What's New (Sep, 1996)



■1996年9月18日

 まじ、衝撃的なニュースだった。2パック、射殺。

 ヒップホップの世界で、西と東とで、発砲事件まで起こる抗争劇が展開されていることは知っていた。ビギーと2パックとの確執とか。いろんなところで耳にしてはいたのだけれど。

 でも、まさかこんな形で死者が出るとは。いや、今回の2パックの死が、例の抗争によるものだと言っているのではなくて。たとえば、まあ、ギャングスター系のラップ・アルバムを聞いていて。ゲットーを舞台に、拳銃と暴力とドラッグとセックスを雨アラレと盛り込んだ歌詞が飛び交って。閉塞した現実の中で堂々巡りを繰り返さなければならない苛立ちに満ちたストリート・ライフやら、ひどく切迫した時代の気分やらをぼくに伝えてくれたとして。

 でも、それって、結局、頭に伝わってきてるだけなんだな、と。今回みたいな事件が起こると、改めて思い知らされてしまう。

 良くも悪くも、こちらは遠く海を隔てた日本で聞いているわけで。2パックたちが身を置いているリアルな現実ってやつを今ひとつ具体的に体感できないまま、その怒りやら苛立ちやらだけを聞いている。演繹リスニングつーか。“ラップはゲットーのCNNだ”というおなじみの言葉があるけれど、そこで展開されている状況描写がたとえ的確かつ妥当なものだったとしても、もはや現場に暮らしていない者には確かなリアリティが感じられなくなりつつあるような。そんな気さえする。

 けれども、本当にリアルなものだったのだ。今回の2パックの死が、それを教えてくれた。ラップの表現はそこまで具体化していたってことだ。

 それほどまでにリアルな現実そのものを託した音楽がポップ・ミュージックのメインストリームとして流通するこの時代が、果たして幸福なのかどうか。なんだかわからなくなってくる。ぼくたちの感覚はどんどん麻痺しているんだろうか。本当にすべての現実さえヴァーチャルなものとしてしかとらえられなくなっているんだろうか。

 あまりにも若すぎる死だと思う。心から冥福を祈ります。



■1996年9月10日

 相変わらず、10月にデビューする某新人アーティストのプロデュースの仕事が続いていて。

 で、こいつら、大阪の連中なんだけど。7人組で。こてこての関西弁なわけですよ。レコード会社のディレクターも関西系で。もう、スタジオじゅうが関西弁の嵐。なもんだから、妙に影響受けちゃって。

 アクセントがおかしくなってくるんだよねー。関西弁っぽく。だけど、完璧に関西弁になっちゃえば、それはそれでOKなんだけど、半端にアクセントがおかしくなるもんだから、ラジオの仕事とか、困ってますわ。

 それにしても、なんだろね、今さらですが関西弁ってのは妙なグルーヴがあって面白いね。ときどきうらやましくなる。「そらちゃうで」「お前コードまちごーとるやないか」「れーの音や、れー」「れーとふぁーの音入れるねん」とかやってるもんなぁ。いつものスタジオと、なんだかノリが違うもんなぁ。

 まあ、そんなわけで。アルバムの完成が近づいたらまた詳しく報告しますー。シングルのほうは、「愛が足りない」ってのと「DAYS」って曲、両A面扱いでデビューすることになってます。バンド名は、ピスキッズ(しょーもない名前だ……)。連中のアイドルはチェッカーズで、もうチェッカーズしか聞かずにライヴを7年もやりまくってたって、すごいんだか何だかよくわからないやつらですー。シングルに関しては彼らだけでシンプルに作りましたが、アルバムのほうはビッグ・ホーンズビーやらビンゴ・ボンゴやらヒックスヴィルやら、仲間たちを呼んで、いろいろ甘えながらわいわいやってるところです。