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Tiny Music Stone Temple Pilots (Atlantic)

Tiny Music
  1. Press Play
  2. Pop's Love Suicide
  3. Tumble In The Rough
  4. Big Bang Baby
  5. Lady Picture Show
  6. And So I Know
  7. Trippin' On A Hole In A Paper Heart
  8. Art School Girl
  9. Adhesive
  10. Ride The Cliche
  11. Daisy
  12. Seven Caged Tigers
(for Music Magazine. April, 1996)

 ほぼ2年のインターヴァルを置いてリリースされた3枚目。前2作同様、ブレンダン・オブライエンをプロデューサーに迎えて、相変わらず密度の濃い音作りを聞かせている。この2年の間に、たとえばブッシュとかシルヴァーチェアとか、グランジ第三世代とも言うべき連中も登場して、ちょっと気を抜くと居場所がなくなりそうなアメリカのロック・シーンではありますが。そこんとこを気合で乗り切ったような手触り。メンバー自身、アルバム・リリース直後にデヴィッド・レターマンのトーク・ショーに出演したりしているらしいし、けっこうその気だな…って感じ。いっとき脱退の噂が流れたヴォーカル、スコット・ウェイランドも結局はバンドにとどまり、全曲作詞を手がけている。

 暴力的なギター・リフがかっこいい(3)や、先行シングル(4)のようなパワー・チューンはもちろん、(2)や(10)のような彼ら独特のヘヴィなうねりをともなった曲の仕上がりはさすがだ。(8)では、ブレンダン・オブライエンのパーカッションがいかがわしいラテン臭を加味。そんなヒラ歌と、もろグランジ!って感じのサビとが交錯する。レッド・ツェッペリンのトリビュート・アルバムでの経験を活かしたのか、これまで以上にツェッペリン臭が強まった(7)も面白い。ギターなんか、あのトリビュート盤でカヴァーしていた「ダンシング・デイズ」そのものだ。

 が、今回のアルバムではむしろミディアム以下のメロディアスな作品での完成度が高いような気がする。青いサビ・メロが胸を締め付ける(5)あたり、サイケデリックな要素もうまく取り入れつつ見事なポップ・ソングに仕上がっているし。浮揚感に満ちた(6)もふわりと聞く者の心に忍び込んでくるし。ベースのロバートがひとりでギターをダビングして録音したらしいインスト曲(11)も、なんだかポール・マッカートニーのソロ・アルバムみたいな雰囲気。悪くない。アルバム全編を聞き終えて印象に残るのは、こうした作品群だったりする。

 歌詞に漂う厭世観は以前より強まったかも。デイヴ・ファーガソンのミュート・トランペットまでフィーチャーした、これまた艶っぽくメロディアスな(9)には“Sell more records if I'm dead. Hope it's sooner…”なんて歌詞まで登場する。おいおい、だいじょうぶかスコット? また脱退の噂が流れるのか?

 いわゆるオルタナティヴものがその名とは裏腹にシーンのメインストリームに居座ってしまった現在のアメリカン・ロック・シーン。確実に混迷状態だ。中堅バンドたちも自らの方向性にあれこれ悩んでいるってことだろう。ストーン・テンプル・パイロッツも例外じゃない。さすがの手ごたえを感じさせながらも、随所にそんな悩みを見え隠れさせてしまった過渡期の一枚ってところだろうか。日本盤にはライヴ版(13)がボーナス追加されている。



Colossal Head Los Lobos (Warner Bros.)
(for What's In Magazine. April, 1996)

 ロス・ロボス名義のオリジナル・フル・アルバムは92年の大傑作『キコ』以来だ。途中、ベスト盤とか、メンバー半分を含むサイド・プロジェクト、ラテン・プレイボーイズのアルバムとか、バディ・ホリーのトリビュート・アルバムへの参加などをはさんで、ようやく登場した新作。このところ、どんどんと付き合いの密度を濃くしている奇才プロデューサー、ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクと組んで、深い深い音世界を作り上げている。映画『ラ・バンバ』のサントラ盤で大当たりをとったころの“テックス・メックス系ロックンロールの新たな担い手”という従来のイメージを下敷きに、ラテン・プレイボーイズでのアヴァンギャルドな試行錯誤を絶妙のバランスで溶け込ませた仕上がりだ。

 南部っぽいスワンプ/ファンク感覚が炸裂する(1)や(2)や(5)、哀愁のメキシコ歌謡メロディをハイパーに展開したような(3)、テックス・メックス系ロックンロール風味をまぶした(4)と(8)、グルーヴィなラティーノ・ソウル(6)、メロウ&エキゾチックな(7)、ブルース魂全開の(10)、(11)などなど。相変わらず、ルーツ・ミュージックの重要な部分を的確に突いた曲作りのセンスにうならされるものの、それだけじゃ終わらない。全体を支配するとことん内省的かつ実験的な肌触りに、さらにもう一声、深々とうならされる。どの曲にも共通して漂うグルーミーな音の感触は、ヒップホップにも通じる、まさに“今の時代の気分”だ。かっこいいなぁ。プロデューサーともども間違いなく全員イッちゃってます。イッちゃった彼方に浮かび上がる“美”に腰が震える今日このごろですよ。ごきげんっ。


Colossal Head
  1. Revolution
  2. Mas Y Mas
  3. Maricela
  4. Everybody Loves A Train
  5. Can't Stop The Rain
  6. Life Is God
  7. Little Japan
  8. Manny's Bones
  9. Colossal Head
  10. This Bird's Gonna Fly
  11. Buddy Ebsen Loves The Night Time


Meet The Real You Noise Addict (Grand Royal)

Meet The Real You
(contains the stuff for Music Magazine. April, 1996)

 先日、ビースティ・ボーイズのオープニング・アクトとして来日したオーストラリアのハイスクール野郎、ベン・リー率いるノイズ・アディクトのフル・アルバム。ソロ作ともどもベン君のソングライターとしての瑞々しさに惹かれる。ただ、バンドという定型メディアでアプローチしているぶん、ソロ作よりこぢんまりしている気も。いずれにせよ、この邪気のなさは演出できるもんじゃない。このまま20代になられちゃたまらんし、いずれはベン君も別の方法論を見つけることになるのだろうけど、とりあえず先のことは置いといて。今は清々しく楽しめる。



Set The Twilight Reeling Lou Reed (Warner Bros.)
(for Music Magazine. April, 1996)

 今回もまた鉄壁のストリート音楽。無駄をすべて削り落としたサウンド。ほとんど感情移入をしない冷徹なヴォーカル。イメージの洪水のような完成度の高い詩。ひたすらシンプルな諸要素が実に効果的に、有機的に絡み合い、スリリングな瞬間をプレゼントしてくれる。このクールな手触りの奥にとてつもなくノイジーな“混沌”を見え隠れさせる手腕もさすが。脱帽だ。「NYCマン」は名曲。


Set The Twilight Reeling