Reviews   Music

2Pac

All Eyez On Me
2Pac
(Death Row/Interscope)

 去年は厄年だった2パック。今年に入って心機一転とばかり、い きなりデス・ロウに移籍。一気に2枚組新作で大攻勢をかけてきた。 やるなぁ。ドクター・ドレ、スヌープ・ドギー・ドッグ、メソッド ・マン、レッドマン、ラッピン4テイ、Dショート、E40、ドゥル ー・ダウンなどなど、現在の第一線ヒップホッパーどもを総結集。 ジョージ・クリントンやロジャー・トラウトマンまで駆り出しての 一大ファンク/ヒップホップ絵巻だ。まじ、かっこいい。まさに今 びったしの“時代の気分”をたたえつつ、西も東もない、アメリカ ン・ポップ・ミュージックの王道たるべきヒップホップ・サウンド をこれでもかこれでもかと聞かせてくれる。

 近ごろMTVでよく見る、2パック+ドクター・ドレ+ロジャー ・トラウトマンによる「カリフォルニア・ラヴ」のリミックスとか、 むちゃくちゃ腰にきます。



Speech

Speech
Speech
(Chrysalis/EMI)

 ラップ“も”やってますって感じの仕上がりだ。アレステッド・ デヴェロップメントの中心メンバーとして92年にデビューを果たし たスピーチが放つ初ソロ・アルバム。全体の手触りはまぎれもなく ヒップホップだけれど、もはやラップの域にはとどまっていない。 実際、けっこう歌ものが多いし。ヒップホップの手法を全面的に取 り入れた新人黒人シンガー・ソングライターのデビュー・アルバム とでも解釈したほうが断然面白いかもしれない。いけます、このイ メージ。

 マーヴィン・ゲイをはじめ、内省的になってからのスライ・スト ーンとか、ビル・ウィザースとか、その辺の先達に通じる思慮深い 味わいこそがスピーチの魅力だ。もともとアレスのヒップホップに は、いわゆる都市のストリートの匂いは希薄。南部出身のアーティ ストならではの郷愁をともなったアーシーな肌触りが彼らのアイデ ンティティでもあった。その辺の感触はソロ作でも変わらない。が、 同時にアレスには、どこかインテリ系小劇団っぽい臭いも付きまと っており、そのぶんアーシーさも妙にヴァーチャルになりがちだっ たりして。そのあたりがぼくには少なからず歯がゆく思えたのだけ れど。さすがソロ作、個人的な色彩が強まり、そのテの歯がゆさは 消えた。生真面目すぎるきらいはいまだにあるが、それはこの人の 直しようのない性格か。聞けば聞くほど深くハマりそうな充実盤だ。 ところで、アレスはどうなるの?




Kaseki Cyder

かせきさいだぁ
かせきさいだぁ
(Natural Foundation)

 去年の暮れ、インディーズから出た盤だけれど。ここにきて、が ぜんぼくの中で存在感を増してきた。元トンペイズの加藤丈文によ るヒップホップ・プロジェクト。前回レビューしたサニーデイ・サ ービスと同じく、70年代初頭の、はっぴいえんどをはじめとする日 本のロックやフォークの持っていた肌触りを見事に今に置き換えて 聞かせてくれる。細野晴臣による「風をあつめて」のイントロの生 ギターだの、鈴木茂のファンキーなギター・フレーズなど、はっぴ いえんど周辺の音源を見事にサンプリングしながら、当時はっぴい えんどが歌詞で提示した世界に通じる、どこかさめた青春の情景を 描く……という感じ。世代の違いもあって、“ナナハン・ライダ ー”とか“アスピリン片手のジェットマシン”とか、出てくるキー ワードが当然はっぴいえんど時代とは一変してはいるのだけれど。 そうした風景の彼方に見える心情は同じ。これもまた“ガラス窓ご しのまなざし”だ。

 東京ナンバーワン・ソウルセットの川辺ヒロシや、木暮晋也をは じめとするヒックスヴィルのメンバー、かつてのトンペイズの同輩 である光嶋崇(MCボーズの弟くん)やナイチョロ亀井、メジャー ・デビューも近いホフディランなどが全面協力。トンペイズ時代の 名曲も再演されている。トンペイズは結局、自主制作のチープなカ セットしか残さずに解散してしまったので、ファンにはうれしいと ころかな。ラップものはもちろん、ホフディランが協力した2曲の 歌ものもすっげえいいです。