Kenta's ... Nothing But Pop
      Reviews (Contemporary): 1/11/1996
    
    
    

    Reviews   Music

    Tribute to Buddy Holly

    Holy Holly!

    Not Fade Away: Remembering Buddy Holly
    Various Artists
    (Decca)

    
    

     トリビュート・アルバム花盛り…って感じ。オルタナ系の連中がカーペンターズに深い敬意とほんのちょっぴりの嘲笑を贈った盤とか、ドン・ウォズのプロデュースのもとでコンテンポラリー・カントリー系のシンガーがエルヴィス・プレスリーこそ自分たちの不動のルーツであることを表明した盤とか、ご本尊の再結成まで導いてしまったイーグルス作品集とか、ひとクセある顔ぶれによるレナード・コーエンやトム・ウェイツの作品集などなど。単なる企画盤を超えた名作も次々生まれている。

     その辺の盤に比べ、特に日本で、さて、どのくらいの注目を集めるのかはわからないけれど。内容的には、まじ、充実したトリビュート・アルバムが本盤。ロックンロールの重要なオリジネイターのひとり、バディ・ホリーに捧げられた一枚だ。本盤のために、なんとグラハム・ナッシュ入りで再結成したホリーズをはじめ、マーヴェリックス、トラクターズ、ナンシー・グリフィス、メアリー・チェイピン・カーペンター、マーティ・スチュワートといったコンテンポラリー・カントリー・シーンの人気者たち、ザ・バンドやニッティ・グリッティ・ダート・バンドらベテランから、ロス・ロボス、トッド・スナイダー、ジョー・イーライら中堅/新鋭勢、デイヴ・エドマンズやマーク・ノップラーといったイギリスのロックンロール・フリーク、そして生前のバディ・ホリーとも深い親交を持っていたウェイロン・ジェニングスまで。ごきげんな人選だ。かつてのバンド仲間、ザ・クリケッツの面々も随所に参加して、このトリビュート盤の手触りをけっしてヴァーチャルなものではない、より豊かで確かなものにしている。

     バディ・ホリーの本格的な全米デビューは57年。その後、映画『ラ・バンバ』でも描かれていた59年2月の悲劇の飛行機事故によって他界してしまったため、実質的な活動期間は短い。けれども、そんな短い間ながら、バディ・ホリーがロックンロール黎明期に成し遂げた功績は本当に大きいのだ。ダブル・トラッキングを多用したレコーディングを行なったり、ギター2本にベース、ドラムという現代に通じるバンド・スタイルを確立したり。ビートルズを筆頭とするイギリスのロックンロール・バンドに対する影響度は、もしかしたらエルヴィス・プレスリー以上のものかもしれない。音楽的スタイルに関しても、カントリー、テックス・メックス、スワンプなどの素晴らしく無垢な融合を実現していた。今回のトリビュート盤は、そうしたバディ・ホリーの様々な功績を見事に凝縮してみせてくれる。

     イギリスへの影響を象徴するものとして、文字どおり彼の名前そのものをバンド名にしてしまったホリーズが参加。バディ・ホリーが生前に残した歌声と夢の共演を聞かせている(アレンジがださいのが少々残念)。カントリー的な魅力に関しては現在のカントリー界の人気者たちが引き継いでみせてくれる。テックス・メックス的な魅力はロス・ロボスが、スワンプ系の魅力はザ・バンドが、そしてロックンロール・ギター・ヒーローとしての魅力はデイヴ・エドマンズやマーティ・スチュワートが、それぞれ再現。バディ・ホリーの功績の再確認盤としては上々の出来だろう。個人的なお気に入りとしては、かつて70年代に名盤『アンクル・チャーリーと愛犬テディ』でもバディ・ホリー・ナンバー「レイヴ・オン」を見事にカヴァーしてみせていたニッティ・グリッティ・ダート・バンドによる「メイビー・ベイビー」のメロウ・ヴァージョンと、旧友ウェイロン・ジェニングスとマーク・ノップラーによる感動的な「ラーニング・ザ・ゲーム」。

     泣けます。

    
    
    

    O T H E R   R E V I E W S

    
    
    Pizzicato Five The Sound Of Music
    Pizzicato Five
    (matador)
    
    
    
     ピチカート・ファイヴのアメリカ・デビュー盤。アメリカ仕様のヴァージョンも含まれているうえに、かわいいオマケ(下のクレジット・カードみたいなやつ)もついているのでファンは要チェックって感じです。小西さんがワイアードのホームページでインタビューに応えて“日本にはレプリカ文化しかない。ピチカート・ファイヴがやろうとしていることもその部分だ”みたいな発言をしていたけれど。その是非はともあれ、そうした発言も含めた彼らの動きがアメリカでどう評価されるのか、すっごく楽しみ。歌詞の英訳も面白かったな。初回20万枚の出荷…とかいう噂も耳にしたけど。すごいね。彼らの活動ぶりとナショナリズムとはまったく相容れないものに思えるけれど、しかし、日本人として応援したい気分ですよ。まじ。あ、でも、日本のマーケットを狙った20万じゃないだろうな…。
    
    
    
    Spice 1 1990-Sick
    Spice 1
    (Jive)
    
    
    
     MCエイトをフィーチャーした表題曲を含むニュー・アルバム。4枚目だ。随所にオールドスクール回帰的ニュアンスがちりばめられているのだけれど、それがうまいこと昨今のギャングスタ系音作りとマッチしていて面白い。歌詞を今ふたつくらい把握できてないので、あまり深いことは言えませんが(笑)。「ファンキー・チキンズ」って曲が、特になんてことないんだけど、かっこよかったな。
    
    
    

      (c)1996 Kenta Hagiwara
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