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(Oldies):
1/5/1996



■"Walk A Mile In My Shoes / The Essential 70's Masters" Elvis Presley (RCA)

 これについては、間もなく出るミュージック・マガジン誌の『コンパクト・ディスカヴァリー』のコーナーでレヴューしているので、そちらを参照して……なんてケチなこと言うのもなんなので。この盤について書いた部分を抜粋しちゃいます。マガジンの編集部の方々、見逃してください。見逃せなかったら一報ください。あやまります(^^;)。

---- 以下、引用です from Music Magazine issue 2/1996 ----

 年頭から大変なものが出てしまいまして。エルヴィス・プレスリーの1970年代の音源を集大成した5枚組『ウォーク・ア・マイル・イン・マイ・シューズ〜ジ・エッセンシャル70'sマスターズ』。50年代ボックス、60年代ボックスに続く、まあ、完結編とも言うべきセットだ。未発表テイクも多数含む全120曲。といっても、50年代の箱のようなコンプリート・コレクションではない。ディスク1と2がシングルのAB面を発表年順に完全収録。ディスク3と4にその他スタジオ・セッションからの名演を録音順に抜粋。そしてディスク5が70年代エルヴィスの重要な活動拠点でもあったライヴ音源からランダムに選曲…という構成になっている。

 この時期のエルヴィスというと、まあ、今ではギャグのように扱われることも多い例のジャンプスーツに身を包み、ラスヴェガスのホテルで中年のおばさま相手に空手アクションを見せていた、みたいなイメージが強く、なかなかその音楽的真価が伝わりにくいのだけれど。70年代カントリー・ロック/スワンプ・ロック的な視点でフラットに聞き直してみると、多くの発見があるはずだ。ジェームス・バートン、グレン・D・ハーディン、ロニー・タットら、グラム・パーソンズのバックなどでもおなじみの顔ぶれがバックアップしたライヴ音源と、ナッシュヴィルの先進的カントリー・ミュージシャン軍団“エリア・コード615”をバックに配したスタジオ録音と。どちらも見事な70年代版南部サウンドを聞かせてくれる。時期的に言うと、ちょうどクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルやトニー・ジョー・ホワイト、ザ・バンドらの活躍によって、多くの人がふと忘れかけていたアメリカ南部のロックンロール魂が再脚光を浴びていたころ。が、サンフランシスコ出身のCCRや、メンバーの8割がカナダ人だったザ・バンドのそうした南部志向がどこかヴァーチャルな手触りを否応なくたたえていたのに対し、好調時のエルヴィスは“もろ”。古きよき南部魂が今なおここに健在である、と。そんな崇高なる事実を思い知らせてくれていた。

 まあ、取り上げる曲がトニー・ジョー・ホワイトの「ポーク・サラダ・アニー」からビートルズの「サムシング」、ジルベール・ベコーの「そして今は」、カンツォーネの「この胸のときめきを」、果ては「マイ・ウェイ」まで…と、異様に幅広く、ロックンロール的な視点からだけ見ると首を傾げたくなる局面も多いのだが、その歌声の根底に流れる強烈なカントリー・フィーリング、ブルース・フィーリング、そして何よりもゴスペル・フィーリングこそを聞き取らなければいけない。そういう意味では万人向けのコレクションとは言えないかな。いきなりこの箱でエルヴィス入門というのはおすすめしないけれど。50年代、60年代と彼の無敵の歌声をきっちりたどった人にはこの箱もまた、かけがえのない宝だ。デイヴ・マーシュによる充実したライナーも大きな助けになりそう。ぼくも200枚近い原稿で末席を汚させてもらっている。近ごろ入手が困難になっていた50年代、60年代、それぞれのボックスも今回あわせて限定再発売されたようなので、お年玉/ボーナス全部つぎこんで一気にエルヴィスの全体像を再評価してください。ぜひ。

 この時期のエルヴィスの一連のスタジオ録音をはじめ、ニール・ヤングのアルバムなどでもおなじみだったデヴィッド・ブリッグズが先日他界。ご冥福をお祈りします。



■"The Heritage Sessions" The Mob (Sequel)

 びっくりだなぁ。ジェリー・ロスのプロデュースのもと、70年代アタマにデビューした7人組、ザ・モブのベストCDの登場だ。当時大当たりをとっていたブラッド・スウェット&ティアーズやシカゴをめざしたブラス・ポップ・バンド。中西部を中心にローカルな人気を博していたようだけど、全米ヒットチャート・ファンのぼくは71年、チャートの下のほうにちょこっとだけ顔を出したシングル「アイ・ディグ・エヴリシング・アバウト・ユー」と「ギヴ・イット・トゥ・ミー」が記憶の片隅にひっかかっていただけ。今回、こうしてまとめて聞いてみると、なんだよ、けっこうかっこいいじゃん……って感じ。初期シカゴやバッキンガムズが好きな人にはおすすめです。ファースト・アルバムの曲を中心に、シングルのみの曲、未発表テイクなどを満載。


■"The Webb Sessions 1968-1969" Richard Harris (Raven)

 「マッカーサー・パーク」のヒットで知られるイギリスの俳優、リチャード・ハリスの2枚のオリジナル・アルバムを2イン1収録した盤。68年の『A Tramp Shining』と69年の『The Yard Went On Forever...』だが、どちらも名ソングライター、ジム・ウェッブの作詞・作曲・アレンジ・プロデュースによるアルバムだ。リチャード・ハリスのファンに、というよりジム・ウェッブのファンにこそ見逃せない1枚だろう。両アルバムともにバックをつとめるのは、ハル・ブレイン、ジョー・オズボーン、ラリー・ネクテルら、西海岸の名手。この辺も見逃せない。さらに69年にシングルでリリースされた「One Of The Nicer Things」もボーナス収録。これがジム・ウェッブのプロデュースによる最後のリチャード・ハリス作品だった。


■"The Songs Of Tommy Boyce & Bobby Hart" Various Artists (Varese Sarabande)
■『トミー・ボイスに捧ぐ/トミー・ボイス・マスターピース』Various Artists (A-Side)

 1994年秋に拳銃自殺という、とんでもなくショッキングな死をとげたソングライター、トミー・ボイスの才能を振り返る盤が洋邦オールディーズ・レーベルから1枚ずつリリースされた。どちらも基本的には名パートナー、ボビー・ハートとの共作曲を中心に、ウェス・ファレル、スティーヴ・ヴェネット、テディ・ランダッツォらとボイスとの共作曲も収録。ボイス&ハートというと、やはりモンキーズに提供した「恋の終列車」や「素敵なバレリ」や「自由になりたい」など、その辺の諸作が有名だけど、そうしたビッグ・ヒットものやボイス&ハート自身の作品などは Varese からの盤に収められている。Aサイド盤のほうはトミー・ボイスが60年代初期、ソロ・シンガーとして活躍していた当時のシングル音源や、よりレアな作品を集大成。一部ダブる曲もあるけれど、両方そろえて、とりあえず安心……ってとこかな。


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