今月に入ったばかりのころ、彼女の訃報が届いた。
ダスティ・スプリングフィールド。乳ガンのためにイギリスの自宅で他界した。享年59歳。またひとり、ポップス・ファンにとってかけがえのないシンガーが早すぎる死をとげた。
ちょうどライノから出た、このアルバムともう1枚、『ダスティ・イン・ロンドン』という盤を買ったばかりのときに飛び込んできた悲しいニュース。なんともやりきれないタイミングだ。淋しいけれど、ぼくたちにできるのは、生前彼女が残してくれた素晴らしい歌声を聞きながら、心から冥福を祈ることだけ。彼女の歌声にまだ本格的に触れたことがない方は、ぜひ本盤でその奥深い魅力を堪能してほしい。
本盤は、1968年9月、イギリスを本拠にするダスティが渡米し、ジェリー・ウェクスラー、トム・ダウド、アリフ・マーディンという極上プロデューサー/アレンジャーの指揮のもと、メンフィスのアメリカン・スタジオでレコーディングした名盤『ダスティ・イン・メンフィス』をベースに、未発表曲などボーナス・トラックを14曲も追加した強力な1枚だ。
オリジナル・アルバムの収録トラックのリズム隊は、もちろん、ジーン・クリスマン(ドラム)、レジー・ヤング(ギター)、トミー・コグビル(ベース)、ボビー・エモンズ(オルガン)、ボビー・ウッド(ピアノ)という面々。コーラスにはスウィート・インスピレーションズも加わっている。
こうした腕利きをバックに、ダスティはキャロル・キング&ジェリー・ゴフィン、バリー・マン&シンシア・ワイル、ランディ・ニューマン、バート・バカラック&ハル・デイヴィッドらの曲を、独特のハスキーな歌声で綴っていく。ジョン・ハーリー&ロニー・ウィルキンス作のファンキーな大ヒット「サン・オヴ・ア・プリーチャー・マン」も収録。日本では、カンツォーネ曲「この胸のときめきを」のドラマティックな歌唱や、「二人だけのデート」のポップな持ち味などで主におなじみのダスティだが、このアルバムを聞けば、誰もが彼女の歌声の奥にひそむブルー・アイド・ソウル的な持ち味に気づくはず。
ボーナス曲のほうは、やはりウェクスラー/ダウド/マーディンのもと69年にニューヨークで行なわれたセッションや、70年にケニー・ギャンブル&レオン・ハフのプロデュースのもとフィラデルフィアで行なわれたセッション、そして71年にジェフ・バリーのプロデュースのもとニューヨークで行なわれたセッションを収録。ちなみに、同時発売になった『ダスティ・イン・ロンドン』のほうは、アメリカでは未発売だった68年のアルバム『Dusty Definitely』の収録曲を中心に、70年代初頭の未発表トラックを加えた、これまたファンには見逃せない内容になっている。
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