1999.2.20

Sunrise
Elvis Presley
(RCA)


 いつも思うんだけど。

 結局、ここにすべてがあるんじゃないか、と。確かに今からすでに45年も前の古い録音だけに、音は今いち。素晴らしいリマスター作業によって以前に比べればむちゃくちゃクリアな音で楽しめるようになったとはいえ、どうしたって古臭い。けど、そんな古い音像の彼方に厳然と存在する覇気とか、熱気とか、高揚感とか。ひとたびそれを聞き取れるようになったら、もう、なんつーか、神々しくて。

 チャーリー・パーカーの40年代の録音とか聞いているときにも同じような感覚に襲われる。結局、この2枚組CDに記録されたエルヴィスの歌声を超えるものなんて、その後誰ひとり作り得ていないんじゃないかと思ってしまう。それはエルヴィス本人でさえ、だ。

 エルヴィスが地元メンフィスのサン・レコードのオーナー/プロデューサー、サム・フィリップスに見いだされてローカル・デビューを飾ったのは1954年。前年、母親へのプレゼントのために自主制作したレコードがきっかけだった。デビュー・シングル「ザッツ・オールライト・ママ」が地元のWHBQ局のR&B番組『レッド・ホット&ブルー』でオンエアされたとたん、たちまち電話で問い合わせやリクエストが殺到。まだまだメンフィスだけでのローカルなセンセーションではあったけれど、人々は“まるで黒人のように歌う若い白人シンガー”の登場にわきかえった。

 「ザッツ・オールライト」はアーサー・“ビッグ・ボーイ”・クルダップのブルースのカヴァーだが、単なるカヴァーに終わらない凄まじく躍動的な“何か”がこの盤には息づいていた。エルヴィスが掻き鳴らす生ギターに、ギタリストのスコッティ・ムーアが軽快でブルージーなリフをからめ、ドラムがいないことをカヴァーするかのようにベーシストのビル・ブラックが弦を叩きつけながら強烈なスラッピング・ベースを聞かせる。最低限のシンプルな編成にもかかわらず、彼らの演奏には、そして何よりもエルヴィスの歌声には、これまで誰も聞いたことがないようなパワーと新鮮さがみなぎっていた。

 それまで白人が黒人音楽をカヴァーする場合、原曲の持っている黒っぽさを薄めて白人向けに焼き直すというパターンがほとんどだった。が、エルヴィスは違った。持ち前の柔軟で奔放なセンスと強力なブルース・フィーリングを駆使して、単なる焼き直しを超えたまったく新しい“何か”を生み出してしまったのだ。その新しい“何か”はやがて“ロックンロール”という新しい言葉で呼ばれるようになる。

 そんな時期、サン・レコードに残された録音群をコンパイルした2枚組CDがこれ。サンライズ…というアルバム・タイトルは、だから、まさに言い得て妙。これまでにもサン音源をまとめた充実したLPやCDはいくつかあったけれど、今回のは別テイク、未発表ものも含む決定版だ。母親のために自主制作した音源もしっかり収録されているし、初おめみえの「ブルー・ムーン」別テイク、および、この時期の未発表ライヴ音源も6曲入っている。

 「ザッツ・オールライト」が地元メンフィスで大ヒットしたのをきっかけに急速に人気を獲得したエルヴィスは、数枚のシングルをサンからリリースしたのち、55年暮れ、いよいよメジャー・レーベルのRCAと契約。おなじみの「ハートブレイク・ホテル」をひっさげて衝撃の全米デビューを果たすことになるわけだけれど。そんなメジャー・デビュー直前の若々しい歌声は永遠。時代の空気が大きく動こうとする、そんな瞬間のスリリングな記録だ。


[ Home | Pick Of The Week | Kenta's Review ]
[ Features | What's Up Archives ]
[ Kenta's Chart | Fav Links | e-mail]


Kenta's
Nothing But Pop!

To report problems with this site or
to comment on the content of this site:
e-mail kenta@st.rim.or.jp


Copyright ©1999 Kenta Hagiwara