1998.10.8

Tiger Man
Elvis Presley
(RCA)

 1968年6月27日に収録された伝説の“シット・ダウン・セッション”の2ステージ目の模様を、まるごとノーカットで復刻したライヴ盤。

 これは、68年暮れに全米に向けてオンエアされたTVスペシャル『エルヴィス』のために行なわれたライヴ。60年代、映画の世界に埋没してシーン最前線からすっかり撤退してしまったイメージがあったエルヴィスが、ふたたび生の観客の前に姿を現わすきっかけとなった重要な一夜だった。四方を観客に取り囲まれた中央のステージで、デビュー以来のバック・メンバーであるスコッティ・ムーア、DJフォンタナら気の合う仲間たちとお互い向かい合うように座ってカジュアルに繰り広げられた、いわば元祖アンプラグドといったオモムキのパフォーマンスだ。

 曲目も事前には特に決めず、気ままに展開されたステージだったらしく、コードを間違えたり、歌詞を間違えたり、替え歌にしたり…。それでも、当時多くの音楽ファンがふと忘れかけていた事実――エルヴィスは誰にも超えることができないすばらしいロックンローラーであること――を、世界に向けて再認識させる最高に躍動的なエルヴィスを楽しむことができる。

 エルヴィスはこのTVスペシャルを経て、70年代、活発な活動を開始する。ライヴのためにジェームス・バートンやロニー・タットを含むライヴ・バンドを結成し、スタジオでは先進的な感覚に満ちたエリア・コード615系のミュージシャンたちを起用。60年代までの人脈を一新することになる。このアットホームなライヴ・セッションが、スコッティ・ムーアやDJフォンタナとの最後の瞬間となった。ローカル・デビュー・シングルでもある「ザッツ・オールライト」をはじめ、往年のレパートリーを次々と歌いながら、エルヴィスはここで確実に過去と決別したということだろう。

 そんな意味でも重要な記録。収録曲のうち一部はTVスペシャルでも披露された。エルヴィスの他界後に出たレア音源集で聞くことができたものもある。が、全16曲中7曲が未発表のままだったもの。貴重ですよ。



Ultimate Christmas
The Beach Boys
(Capitol)

 またまたすごいのが出ました。

 64年のクリスマス・アルバム全曲に加えて、シングル音源、そして77年に出るはずだった幻のセカンド・クリスマス・アルバムからの音源を聞くことができる、まさに究極の1枚。以前紹介した『エンドレス・ハーモニー』に続いて、ブラザー/リプリーズ音源を入手したキャピトルが放つ新規再発シリーズ第二弾だ。

 11月には国内盤も出るそうで。そのライナー、また書かせてもらってます。詳しいことはそっちにあらかた書いちゃったんだけど。英文ライナーにちょっとしたミスがあるので、輸入盤を買っちゃった人のために記しておくと。ライナーによれば「リトル・セイント・ニック」のシングル・ヴァージョンおよび、「ドライヴ・イン」のメロディを流用した別ヴァージョンだけが3トラックのマスター・テープから新たにステレオ・ミックスされたということだけれど、その2曲に加えて、デニスのナレーション抜きの「蛍の光」も今回初お目見えのステレオ・ミックスです。

 とはいえ、シングル・ヴァージョンのオリジナル・モノ・テイクや、シングルB面曲「ローズ・プレイヤー」などは今回ボーナス・トラックから削除されてしまっているので、買い直した人もこれまで持っていた盤は手放さないほうがよいです(笑)。

 77年盤の収録予定曲のうち、ここで聞けるのは「チャイルド・オヴ・ウィンター」(74年のシングル)、「サンタズ・ガット・アン・エアプレイン」(なんとブートでおなじみ「H.E.L.P.イズ・オン・ザ・ウェイ」の歌詞違いヴァージョンではなく、「ループ・デ・ループ」の歌詞違い)、「クリスマス・タイム・イズ・ヒア・アゲイン」(「ペギー・スー」の歌詞違い)、「ウィンター・シンフォニー」、「(アイ・ソー・サンタ)ロッキン・アラウンド・ザ・クリスマス・ツリー」(ブートでは「アイ・ソー・マミー・キッシング・サンタ・クロース」と題されていた)、「モーニング・クリスマス」(こちらもブートでは「ホーリー・イヴニング」のタイトルでおなじみ)の6曲。さらに、アウトテイクの中から「メレカリキマコ(コナ・クリスマス)」(「コナ・コースト」の歌詞違い)と「ベルズ・オヴ・クリスマス」(「ベルズ・オヴ・パリス」の歌詞違い)が収められている。

 ビーチ・ボーイズのメンバーの子供たちによる「ママがサンタにキスをした」(カーニー&ウェンディの盤に正式収録されたことがあったけれど)やクリスマス・メドレーはカット。さらにマイクの「アローン・オン・クリスマス・デイ」も入らなかった。残念。クリスマスに関係ないものの、曲数合わせのために当時収録が予定されていた「ゴー・アンド・ゲット・ザット・ガール」「シーズンズ・イン・ザ・サン」「漕げよマイケル」は、たぶん今後予定されているプラザー/リプリーズのオリジナル・アルバム群のボーナス・トラックとして世に出るはずだ。今後を楽しみにしましょう。



Flying High
Gene Clark
(A&M)

 グラム・パーソンズ〜フライング・ブリトー・ブラザーズの研究家としても熱心に再発作業を続けているロング・ライダーズのシド・グリフィンが選曲・監修したジーン・クラークの2枚組アンソロジーだ。

 バーズ時代のものから、CBSコロムビア時代の初期ソロ音源、ディラード&クラーク時代、A&M〜アサイラム〜RSOのソロ音源など、レーベルを超えて代表曲を網羅。グラム・パーソンズに比べるとちょっと全体像が暗いせいか、今ひとつ評価が定まりにくい人だけれど、このアンソロジーはそうした彼の豊かな才能と充実した活動を再認識させるのには絶好の盤って感じだ。

 フォーク・ロックからカントリー・ロックへという60年代末〜70年代の音楽界の流れを独自のテイストでリードした偉人です。



Bryd Parts:
Oddities, Curios, Rarities &
Essentials by members of
the Byrds, alone and together
1964-1980

Various Artists
(Raven)

 で、もいっちょバーズ関連。上のジーン・クラークも含めたバーズのメンバーたちがソロで、あるいはバンドで残した様々なレア音源の集大成盤。

 デイヴィッド・クロスビーのソロ、クリス・ヒルマンのザ・ヒルメン、グラム・パーソンズのインターナショナル・サブマリン・バンド、ディラード&クラーク、クラレンス・ホワイトのナッシュヴィル・ウェスト、マッギン・クラーク&ヒルマンなどをはじめ、グラム・パーソンズとフレッド・ニールの共演曲、クラレンス・ホワイトとライ・クーダーの共演曲、プロデューサーのテリー・メルチャーの曲、バーズの変名プロジェクトであるザ・ジェット・セットやザ・ビーフイーターズの音源などなど。

 有名なものから未発表音源まで。バーズ関連の歴史をたどるうえで重宝しそうな1枚です。




Live At
The Old Waldorf

Mike Bloomfield
(Columbia/Legacy)

 1976年から77年にかけて、ブルームフィールドさんが毎週末にレギュラー出演していたというサンフランシスコのクラブで収録された未発表ライヴ音源。

 むちゃくちゃ真摯にブルースと向かい合うブルームフィールドの姿がくっきり記録されていて、なんとも感動的だ。ヴォーカルを担当しているのはバンドのメンバーであるロジャー・トロイとボブ・ジョーンズ。曲によって旧友マーク・ナフタリンやバリー・ゴールドバーグも参加している。60年代から70年代にかけて、ポール・バターフィールドやエルヴィン・ビショップなどが時代とともに音楽性を変えながら活動を続けたのに対し、この人はほんと一途にブルースしてたんだなぁ…と、妙な感慨にふけってしまう。




Nuggets:
Original Artyfacts
From The First Psychedelic Era
1965-68

Various Artists
(Rhino)

 72年にエレクトラから出た60年代アメリカン・ガレージ・ロックの名作2枚組コンピレーション『ナゲッツ』をまるまるそのまま1枚のCDに詰め込んで、さらに同じコンセプトの曲調のものを満載した3枚のCDを追加した計4枚組ボックス・セット。

 ビートルズ、ストーンズを筆頭とするブリティッシュ・ビート・グループの来襲に影響を受けたアメリカの若者たちが作り上げた、ポップでサイケデリックなロックンロールの雨アラレだ。

 それまでコンピレーション・アルバムというと、TVでコマーシャルしているタイプの、いわゆるKテル系のヒット寄せ集め盤がほとんどだった時代に出たオリジナル『ナゲッツ』が、その後の再発シーンに与えた影響はでかい。今回このボックスをリリースしたライノも、『ナゲッツ』なしには誕生しなかったはず。そんな敬意がたっぷりこめられた上質ボックス・セットです。




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