1998.8.30

Rascals:
Atlantic Years

The Rascals
(Rhino/East Wets Japan)


 売れてるらしいです。7枚組、1万4000円ながら、本ボックスの監修者である達郎さんのニュー・アルバムとともにレコード屋さんのレジ近くに置かれているのが功を奏したか、セットでお買い求めの方が多いとか。

 品切れ店続出のため、初回完全限定ってことはなくなったそうだけれど、いずれにせよ長くて9月いっぱいぐらいまでしか生産はしないんだそうで。買っとかないとね。このボックスについてはあちこちの雑誌で書いているので、その中から、ミュージック・マガジンに寄稿した文章をここに載せさせてもらいます。すんません。

 


for Music Magazine, Sep. 1998


The Young
Rascals
1966


Collections
1966


Groovin'
1967


Once Upon
A Dream
1968


Freedom
Suite
1969


See

1969


Search
And
Nearness
1971

 

 快挙でしょう。今月、記事のほうにも登場なさった山下達郎氏の企画・監修によるラスカルズ総まくりボックス。その名もずばり『ラスカルズBOX〜アトランティック・イヤーズ』。65年、アトランティック・レコードが契約した白人アーティスト第1号として彼らがデビューしてから、やがて71年、CBSコロムビアに移籍するまでに残した全オリジナル・アルバムを詰め込んだ7枚組CDボックスだ。

 過去、CD化が実現していたアトランティック時代のラスカルズのアルバムといえば、ベスト盤以外、66年の『ザ・ヤング・ラスカルズ』と『コレクションズ』、67年の『グルーヴィン』という初期3枚のみ。68年の『ワンス・アポン・ア・ドリーム』以降の4枚はずっと未CD化状態だった。彼らのキャリアのピークを形成した69年の『フリーダム・スイート』や名盤『シー』がCDになっていなかったというのだから世の中わからない。ちょうど10年前、ライノがラスカルズのオリジナル・アルバムをリマスターし、アナログ盤で一気に復刻して話題になったことがあったけれど、そのときオリジナルでは2枚組だった『フリーダム・スイート』は、例の長尺ドラム・ソロを含むディスク2を省いた1枚ものでの復刻だった。『シー』と71年の『サーチ・アンド・ニアネス』に至っては、その後のCBS時代の2組のアルバムとともに『サーチング・フォー・エクスタシー』なるコンピレーションに何曲かずつ押し込められていただけだった。

 そういう意味でも今回のCD化は、くどいようだけれど、快挙。イタリア系アメリカ人ながら、愛する黒人音楽に追い付け追い越せとばかりソウルフルな音楽的スタイルの模倣にいそしんでいた初期を経て、徐々にそうした単なるスタイルを超えた本当の“ソウル”をつかみとり、独自の“魂の音楽”を作り上げることに成功しつつあった時期のラスカルズの雄々しい試行錯誤を、ようやく今の若い世代もオリジナル・アルバムの形で追体験できるようになったのだから。日本側からライノに要請して、名匠ビル・イングロットがリマスターをほどこして…という経緯を経ての日本国内のみの完全初回限定リリース。様々なシングル・ヴァージョン、および「グルーヴィン」のイタリア語/スペイン語ヴァージョンや「ア・ビューティフル・モーニング」のイタリア語ヴァージョンなどがボーナス収録されているのもうれしい。本音としてはばら売りしてほしいけど(笑)。でも、出ただけでも十分か。日本企画なのに詳細な英文ライナーもあり。和訳もあり。カヴァー曲については、ぼくも解説を書いた。レコード屋さんで、達郎さんの解説も付くというニュースを目にしたが、これはなくなったそうなので、ご注意を。

 と、まあ、68年以降の充実作の完全復刻に心底盛り上がると同時に、すでにCD化が実現していた初期3枚の魅力も再発見している今日この頃です。特にファースト・アルバム。のちに名曲を次々生み出すことになるフェリックス・キャヴァリエ、エディ・ブリガッティ、ジーン・コーニッシュらメンバーによる自作曲は1曲のみ。残りはロックンロール、R&B、スピリチュアルのカヴァーと、プロのソングライター・チーム、ソイヤー&バートンによる書き下ろし曲という内容なのだが。これがいいんだ。今回聞き直してみて、一層好きになった。つまり、若き日のラスカルズのパフォーマーとしての魅力を再確認した、と。そういうことだ。オリンピックスのヒットをカヴァーして初の全米1位に輝いたシングル曲「グッド・ラヴィン」にしても、ウィルソン・ピケットよりも早くからカヴァーしていたという「ムスタング・サリー」にしても、このファンキーさはただごとじゃない。キャヴァリエのヴォーカル・アプローチとオルガン・プレイはすでに完璧だ。ソイヤー&バートン作の「ベイビー・レッツ・ウェイト」を切々と歌うブリガッティのヴォーカルも胸にしみる。すごいや、こいつら。暴走ぎみに突進する若いエネルギーが爽快だ。

 すべてのポップ・ミュージック・ファン必携の箱。1万4000円だそうで。高い? でも、1枚2000円。ばら売りでもまとめ買いが基本だろうし。買っとけ、とりあえず。ぼくが監修したミュージック・マガジン増刊『ブルー・アイド・ソウル』と、ぜひ併せて、へへへ、お楽しみください。


[ Home | Pick Of The Week | Kenta's Review ]
[ Features | What's Up Archives ]
[ Kenta's Chart | Fav Links | e-mail]


Kenta's
Nothing But Pop!

To report problems with this site or
to comment on the content of this site:
e-mail kenta@st.rim.or.jp


Copyright ©1998 Kenta Hagiwara