1998.8.14

Stunt
Barenaked Ladies
(Reprise)

 カナダの人たちだよね。かつて「ブライアン・ウィルソン」ってタイトルの曲をやっていたもんで、どんな連中だろうと思って買ってみたのがベアネイキッド・レイディーズとの出会い。全然ビーチ・ボーイズっぽくなかったのだけれど、ひねりのきいたオルタナ・ポップ・センスが気になって、その後も新作が出るたびに追いかけている。

 で、これが5作目。ビートルズっぽいものあり、ニュー・ウェイヴふうあり、オルタナ・カントリーふうあり、メキシコ風味あり。そのどれもが緻密かつトリッキーに構築されていて。しかも歌詞も深い。シニカルで、鋭くて、時に残酷で。楽曲的には過去の4枚よりもレベルが高いところでそろっていると思う。



Birmingham Road
Jeff Black
(Arista Austin)

 アリスタ・オースティン、というレーベル名だけでけっこう惹かれる。ブルース・スプさんとスティーヴ・アールあたりの味を受け継ぐオースティンのシンガー・ソングライター……とか言われたら、もう触手が動くでしょ。そのうえ、バックをつとめるのがジェフ・トウィーディ抜きのウィルコの面々ときたら、期待するなってほうが無理。プロデュースも、デイヴィッド・バーンやプリンスあたりと交流のあるスーザン・ロジャース。

 キャッチーでポップなアプローチも曲によってはあるけれど、たぶんこの人最大の持ち味は、聖書っぽい物語を淡々と綴る「ノアズ・アーク」って曲のような、まさにストーリーテラー系のものだと思う。パフォーマーとしては全般的に生真面目すぎる感じもするけれど、曲作りの才能はかなりのもの。シンガーとしてより柔軟な個性を身につければ、かなりの存在になりそうだ。



Combustication
Medeski, Martin & Wood
(Blue Note)

for Music Magazine, Aug. 1998

 ごきげんなオルガン・トリオ、MMWのオリジナル・アルバム6枚目。名門ブルーノート・レコードに移籍しての意欲作だ。

 去年、インターネット上のオフィシャル・ホームページでのみ通販したというアルバムは残念ながら耳にしていないので、ぼくにとって彼らの近作オリジナル・アルバムは、グラマヴィジョンから96年に出た『Shack-Man』になるのだけれど。あのアルバムと本盤と、たぶん彼らがやろうとしていることは何ひとつ変わらないのだろうと思う。が、練り上げ方がまったく違う。意図的なオーヴァーダブも今回は多く聞かれる。達成しようとしているグルーヴは同じなのだが、これまで、あくまでもライヴな演奏にこだわりながら理想のグルーヴへと到達する“過程”を見せ続けてきたMMWが、本盤では“結果”を盤面に定着させようとしている感じ。ジャズの美学には反する動きなのかもしれないが、R&Bの一形態としてのジャズを愛好するぼくのようなある種半端なリスナーにとっては歓迎すべきアプローチだ。

 ファースト・シングルとしてカットされる1にオーヴァーダビングされたメロトロンとか、5でドラムやクラップとともにファンキーなグルーヴを盛り上げるクラヴィネットとか、曲の前半部が『サマラユーカ』あたりのマッコイ・タイナーを思わせる7での生ピアノ・ソロとか、ニューオリンズっぽいビートにバックアップされた9で聞かれる、少し割れ気味のウィリッツァー・ピアノ・ソロとか、バンドの要にあたるキーボード奏者、ジョン・メデスキーの積極的な楽器選びが何よりも印象的。1、3、10にゲスト参加しているDJロジックによるターンテーブル・ワークも面白い。歌声や猫の鳴き声などを絶妙にコントロールしたターンテーブルによるインプロヴィゼーションでMMWと見事に渡り合ってみせる。6では、スティーヴ・キャノンなる男が語ったカンサス・シティのジャズ・シーンをめぐるストーリーが、MMWの演奏にスリリングに重なる。

 アルバムのクレジットが手元にまったくないので詳しくはわからないのだが、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのヒットに一層のゴスペル風味を加味しつつ、テンポを落としグルーヴィにリメイクした8と、ギャビー・パヒヌイも演奏していたハワイのトラディショナル・ナンバー11の2曲がカヴァー…かな。11はけっこう面白い。スラック・キー・ギターの手触りをキーボードで再現していて。緊張と安堵がいいあんばいに交錯する名演だ。

 ブルーノート移籍ということで、少々フロシキを広げすぎたきらいがないわけではないけれど、彼らの可能性が全13曲にたっぷり詰め込まれた1枚。ニッティング・ファクトリーの底力、ここにありだ。ところで、このアルバム・タイトル、どういう意味なの?



You Gotta
Be Loose:
Recorded Live in U.S.A.

NRBQ
(Rounder)

 NRBQに関してよく耳にするのは、“彼らの魅力はライヴを見なきゃわからない”というある種ありきたりのフレーズで。そういうことを聞くたびに、そうなのかなぁ、レコードでも十分楽しいけどなぁ、と思っていたぼくも、実際に数年前、来日した彼らのステージに接して、いやいやいやいやその通り、こいつらはライヴ見ないとわからん、と思い直したものです。そうなると、アル・アンダーソンがいたときのライヴってのを見たかったなぁとも……(笑)。

 というわけで、そんな彼らの何枚目かのライヴ・アルバム。ジャケットを眺めまくってもアメリカでのライヴってことしかわからなくて、もしかして再発? 新譜? 膨大にある彼らのカタログを全制覇しているわけではないぼくにははっきりした情報がつかめないのだけれど。いいです、やっぱり。本物のライヴ体験に比べるとやっぱり聞き劣りしちゃうものの、とりあえず一度彼らのライヴを味わった身には彼らならではの空気感のようなものが伝わってきて。楽しい。

 曲によってホーン・セクションなども導入しながら、ジャズからカントリーからロックンロールからバー・バンドっぽいR&Bから、あるいはオリジナルからカヴァーから、何でもこいの勢いを聞かせてくれる。アル・アンダーソンがいなくてもテリー・アダムスが存分に魅力を放っている。気分爽快ですよ。




The Dirty Boogie
The Brian Setzer Orchestra
(Interscope)

 オーケストラ名義になってから何枚目かな。よくわかりませんが。今回のが個人的にはいちばん好き。ソリッドなオリジナル曲に加えて、2曲のリーバー&ストーラー作品、インストの名曲「スリープ・ウォーク」の鬼気迫るカヴァー、ロカビリー・ファンなら誰でも大好き「ジス・オールド・ハウス」、必殺の「シンス・アイ・ドント・ハヴ・ユー」、そしてルイ・プリマの「ジャンプ・ジャイヴ&ウェイル」、ボビー・ダーリンのスウィンギーな「アズ・ロング・アズ・アイム・シンギン」などを見事に配し、バラエティ豊かに聞かせる。

 とはいえ、オーケストラ編成だからといってジャンプ・ブルースとかを中心にするのではなく、ストレイ・キャッツでやっていたようなハード・ロカビリーものをあくまでもレパートリーの中心に据えて、ぐりぐりドライヴしまくっているのがうれしい。そうそう、ストレイ・キャッツ時代の「ロック・ジス・タウン」も再演。ワイルドでかっこいいです。

 歌もいいけど、やっぱりギターがすごいな。この人のギターは、ほんと、誰にも真似のできないものだね。初来日公演での衝撃を思い出した。



Navy Blues
Sloan
(Murderecords)

 もう4枚目。カナダでは絶大な人気を誇るらしいスローンの新作だ。またまたレーベルを移籍してのリリース。今回もビートルズ、ゾンビーズ、タートルズ、ビーチ・ボーイズ、モット・ザ・フープル、フェイセズといった連中の要素をごちゃまぜにしたような持ち味で、軽快なポップ・ン・ロールを聞かせる。

 カナダ以外で今ひとつ爆発しないのは、こぢんまりしてるせいかな。でも、メンバー4人それぞれが書く曲もそれぞれに魅力的だし、適度に屈折感覚も入っているし、トッド・ラングレン〜ジェリーフィッシュ的な脈絡の中でもうちょい評価されてもよさそう。本盤がきっかけになればいいのに。


The Girl That
God Forgot

Suncatcher
(Restless)

 「トラブル」ってシングルにハマって、アルバムも買いましたよ。60年代中期の英米サウンド、つまり『ラバーソウル』っぽい感じとか、初期のザ・バーズとかの音からの影響を強くたたえたジャングリーなギター・ポップ・バンド。

 と、まあ、音のほうはそういう感じで。REMとか好きなら間違いなさそうかな。ヴォーカルのダグ・ハモンドってやつがほとんどの曲を書いていて、けっこうイケてます。マイケル・スタイプとリチャード・バトラーとカート・コバーンをごっちゃにしたみたいな歌声もこのテのバンドにはばっちしでしょう。


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