1998.8.14

Hell Among
The Yearlings

Gillian Welch
(Almo Sounds)


 「すごいのがいるよ」と能地に教えてもらって彼女のデビュー・アルバム『Revival』を聞いたのが、いつだ? おととしか? アルパート&モスが設立したアルモ・サウンズから、Tボーン・バーネットのプロデュースで登場した女性シンガー・ソングライター。すごいと思った。ほんとに。いい曲書くし。フォーク、カントリー、ブルーグラス、ホワイト・ゴスペルといった、重要なホワイト・ルーツ・ミュージックを見事に自分のものにしているし。

 で、この新作。これはもっとすごい。むちゃくちゃすごい。地味さは思い切り増したが、そのぶんすごみも増した。ソングライティング・パートナーであるデイヴィッド・ローリングスとのコンビネーションをより強化/深化させて、とんでもない成長ぶりを聞かせてくれる。Tボーン・バーネットがプロデュースを手がけているものの、基本的にギリアンとデイヴィッドとの二人だけによるアコースティック・ワールド。楽曲的にも、演奏的にも、ジミー・ロジャースとかウッディ・ガスリーとか、古きよきアメリカン・フォーク/カントリーの世界を見事に今の時代へと移し換えた仕上がりだ。すごい。

 歌詞もすごい。テーマは、死、移動労働者、鉱夫、孤児、ドラッグ……。いきなり冒頭の曲から、亭主の留守にレイプされそうになった妻がレイピストの落とした酒瓶でそいつの首をかっ切る内容だったりして。それが実に穏やかなアコースティック・サウンドにのって淡々と展開するし。ジミー・ロジャースの現代版とも言うべき傑作曲「マイ・モーフィーン(モルヒネ)」は、ヨーデルを交えたのどかなメロディでドラッグのことを歌っているし。

 ちょうど今、ぼくはワケあってフォークナーとスティーヴン・キングをたまたま同時並行で読んでいたりするわけですが(笑)、そういう小説を読んでいるときにも感じる、あの独特の感触がここにもある。アメリカの神話というか、寓話というか。日本で生まれ育ったぼくなどにはどうしたって直感的には納得しづらい世界が展開していて。でも、この世界を少しでも深く知る手助けになるんだったら、改めて聖書を読破してもいいなとまで思わせる、なんとも強烈な吸引力。それが、ギリアン・ウェルチの歌声にはある。

 暗いんだけどねぇ。でも、惹かれるんだなぁ。


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