古巣のアサイラム・レコードを離れ、1983年にアイランド・レコードに移籍してからの音源で構成されたベスト盤。83年の『Swordfishtrombones』、85年の『Rain
Dogs』、87年の戯曲の音楽集『Franks Wild Years』、88年のライヴ『Big Time』、92年の『Bone
Machine』、同じく92年のジャームッシュ映画のサントラ『Night On Earth』、そして93年の『The Black
Rider』まで。出たアルバムからもれなく選曲された、なかなか充実したアンソロジーに仕上がっている。
トム・ウェイツの場合、「オールド55」の入ったファーストとか、必殺の名盤『The
Heart Of Saturday Night』とか、アサイラム在籍時のジャズを明確なルーツに置いた諸作のほうがとっつきやすい気がしないでもない。ギンズバーグやケルアック、あるいはバロウズ調の歌詞を、例のしゃがれ声で、ポエム・リーディングにも一脈通じる独特の節回しで歌う、あの感じ。ぼくも愛聴しました。『Foreign
Affairs』あたりがそのピークかな。
でも、アイランド移籍後、より混沌とした方向性を示し始めてからのトム・ウェイツも、いったんハマるとやめられない魅力を持っているのだ。はじめて『Swordfishtrombones』を聞いたときは、おいおい、どうなっちゃったんだよぉ、あのおセンチな酔いどれ詩人のイメージはどこ行っちゃったんだ……と、嘆いたぼくですが、今となってはどっちかというと、もうアサイラム期よりこっちのほうが好きかも。
エスニックなパーカッション類を多用しながら構築されたスプーキーかつノイジーなメランコリック・ワールドというか。なんだかワケわかりませんが。この手触りは本当にすごい。クルト・ワイルがさらにいかれちゃったような、この時期のトム・ウェイツ・ミュージックをとりあえずざっと体験するには絶好のベスト盤だろう。
おかげで、オリジナル・アルバムのほうも聞きたくなっちゃってレコード棚/CD棚を大捜索中です(笑)。
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