1998.2.23

1998 Hoopla
Speech
(Vagabond/EAU)


 ソロ第2作。

 前作同様、またまたラップ“も”やってますって仕上がりだ。特にソロ独立後のこの人の場合、ぼくは90年代を代表する優れた黒人シンガー・ソングライターとして評価していて。もちろん、出が出だけに、ヒップホップ色は当然のように濃いわけだが、この90年代に自己表現するうえで必須の手法としてのヒップホップであって。かつてのシンガー・ソングライターたちが時代の必然の中で生ギターを抱えたり、ピアノの前に座ったのと同じ構造のもと、彼はヒップホップという方法論を選び取っているだけなんじゃないかと思う。去年監修した『シンガー・ソングライター』というCDガイドブックの名盤100選の1枚として彼のソロ・デビュー盤をセレクトしたのもそういう理由からだった。

 マーヴィン・ゲイ、ビル・ウィザース、カーティス・メイフィールド、ダニー・ハザウェイ、そして内省的になってからのスライ・ストーンなどなど、その辺の先達の試行錯誤をなかなか有効に継承しているなと思う。グラム・パーソンズやジェームス・テイラーに対するベック、カーティスやハザウェイに対するスピーチ……というか。

 そういう持ち味が前作以上に色濃く現われたのが本盤。往年のカーティスの穏やかなミディアム曲にも通じる美しいコード進行とシンプルなバッキングが印象的な「クロックス・イン・シンク・ウィズ・マイン」や「リアル・ラヴ」、フォー・ノン・ブロンズの「ホワッツ・アップ」のフック・フレーズをそのまま大きくフィーチャーした「ザ・ヘイ・ソング」、70年代ニュー・ソウルふうの肌触りをヒップホップ的な音像とうまく合体させた「ザ・マウンテン・オブ・ロンリー」や「スレイヴ・オブ・イット・オール」など、ごきげんなナンバーがずらり。

 なんでもクリスチャンになったとかで、前出の「リアル・ラヴ」をはじめ、歌詞の世界に当然そうした色合いもにじみ出しているのだけれど、もともとこの人の場合、持ち前のきまじめさがあったわけで。特に大きい変化は見られない。アレステッド・デヴェロップメント時代から、どちらかというとアタマでっかちなヒップホップという、奇妙なバランスの音楽を作り続けてきたスピーチ。彼はむしろソロ・アーティストとして、今のようなある種パーソナルな音作りをしているほうが向いているんだろうなと思う。


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