1997.12.22
|
|
Everybody's
Got A Song
Donnie Fritts
(Oh Boy)
|
またまた、おっさん復活。74年にマッスル・ショールズでレコーディングされた名盤『プローン・トゥ・リーン』に続く、なんと23年ぶりのセカンド・アルバム。歌声を聞くのも、たぶん94年に出たアーサー・アレキサンダーへのトリビュート盤でのダン・ペンとのデュエット以来かな。
ナッシュヴィルを拠点とするソングライター/キーボード奏者として活躍する男だけれど。そうした人脈を駆使した一作。ダン・ペン、クリス・クリストファスン、ジョン・プライン、ウェイロン・ジェニングス、ウィリー・ネルソン、トニー・ジョー・ホワイト、エディ・ヒントン、スプーナー・オールダムなどがこぞってゲスト参加している。23年ぶりの再演となる「ウィー・ハッド・イット・オール」を含め、自作の代表曲がずらり。
歌は前よりヘタになっちゃってるかもしれないので、広くおすすめはできないものの、『プローン・トゥ・リーン』を持っている人(=愛聴している人)なら絶対に買い。渋いよぉ。
|
|
Blue Cinderella
Kami Lyle
(MCA)
|
今年の夏にリリースされていた盤。紹介しそびれていたのだけれど、このほど国内盤も出ることになったみたいなので、遅ればせながら取り上げておきます。
変な経歴の女性シンガー・ソングライターで。ミネアポリス出身、9歳でトランペットを始め、ジャズの勉強のためにバークリー音楽院入り…。その後、ナッシュヴィルに移ってバイトしながらソングライター修行。そうこうするうちにMCAにスカウトされ、ヒュー・パジャムのプロデュースのもと、ニューヨーク・レコーディングでデビューした、と。
アイドルはチェット・ベイカーだそうだが、なるほど、ちょっとジャズがかった曲になるとその味が出る。それ以外では、けっこうポップな女性シンガー・ソングライターものって感じ。初期のリッキー・リー・ジョーンズっぽい雰囲気もあり。はすっぱな声が悪くないです。曲もいい。
|
|
In Tha Beginning
...There Was Rap
Various Artists
(Priority)
|
その昔、ラップってのがあったんだよ…という、おもろいタイトル通り、ヒップホップ・シーンの現役ばりばり連中が初期ヒップホップの名曲をカヴァーしまくるという楽しい企画盤。
なつかしーっ! と、思わず椅子から立ち上がっちゃったランDMCのトラックをそのまま使った「サッカーMC」をウータン・クランがぶちかましてスタート。ボーン・サグズン・ハーモニーの「ザ・ポリス」、パフ・ダディの「ビッグ・オール・バット」、スヌープの「フリーキー・テイルズ」、エリック・サーモン、キース・マレイ、レッドマンというラインアップによる「ラッパーズ・デライト」、サイプレス・ヒルの「アイム・スティル・ナンバーワン」、クーリオの「マネー」、ザ・ルーツの「ザ・ショウ」などなど、取り合わせもごきげん。仕上がりもいい。みんな、オリジナル・ヴァージョンが身体に入ってるね、ちゃんと。
日本だとベテランが若い音に歩み寄ることはあっても、その逆はめったにない。たまにあっても詰めが甘いことが多いし。筒美京平作品のオルタナっぽいカヴァー盤とか出たけど、あれなんか乱暴なばかりで。作品の本質への理解も何もあったもんじゃない。何かに心からの敬意を示すって作業、あるいは何かを魅力的にぶち壊すって作業は、対象を知り抜いた者にしか絶対になしえないってことだ。そんな意味でも、この盤は楽しいです。
|
|
The Rapsody:
Overture
Various Artists
(Def Jam/Mercury)
|
まあ、ヒップホップってのは何をバックトラックにしてもいいわけで。その奔放さとか無邪気さが最大の魅力だったりするわけだけど。
そんなこんなで、ワイクリフとかクーリオとか、最近はクラシックのレコードをバックトラックに使う連中も増えてきた。で、そのコンセプトでまるまる1枚作っちゃったのがこれ。ヒップホップとクラシックの融合。なんか、ずいぶんとお気楽なアイデアだなぁと思っていたら、アイデアの出元はドイツなんだとか。なるほどね。
ワーグナーが鳴り響くイントロに続いて、イグジビットがプッチーニをバックに凄み、LLクールJがドリーブをスウィートにきめ、ウォーレン・Gがボロディンでグルーヴし、レッドマンがドビュッシーを陵辱し…といった具合。ノージは“「誰も寝てはならぬ」モブ・ディープ”って曲目表を見て「なんだか、すごいね」と笑ってました(笑)。
まあ、あまり深く考えず、軽く聞き流すには面白い盤かも。当然いい曲多いし。
|
|
Zombie Heaven
The Zombies
(Big Beat)
|
噂のボックス・セット。ようやく発売された。
これまでにもゾンビーズの全曲集とかは何度もリリースされてきたけれど、とりあえずの決定版の登場って感じ。CD4枚組全119トラック。デモ、別ヴァージョン、ダビングあり、ダビングなしなど入り乱れて、未発表トラックが42。トム・ペティの序文に始まるブックレットもすばらしい。ロッド・アージェント、コリン・ブランストーンらメンバー自身による楽曲解説もたっぷり。とりあえずゲットしておいたほうがいいかも。
ディスク1が初期シングルのAB面およびアルバム『ビギン・ヒア』収録曲。つまりデッカ音源ね。で、ディスク2がCBS音源。名作アルバム『オデッテイ&オラクル』の曲およびそのころのシングル音源、そして未発表に終わった幻のアルバム『R.I.P.』の曲を集めている。ディスク3はデモや別ヴァージョン。ディスク4はBBCに残されたライヴ音源集。
R&Bとジャズの影響を深くたたえた独特の洗練されたポップ感覚はやっぱり魅力的だ。ブリッティッシュ・ビート・グループの仲間として語られてしまうことが多くて、それがこの人たちにとって不幸なのかなとも思う。まあ、ぼくの場合も、この人たち、ちょっと腰が弱い感じがして、なかなか本格的にはのめり込めずじまいだったのだけれど、それはなんだか薄めのレコーディング音質のせいかもしれない。こういう充実したアンソロジーがあれば自分なりにもっともっと楽しめるツボが見つけられそうだ。
|
|