Kenta's ... Nothing But Pop

Forest For The Trees
Forest For The Trees
(Dreamworks)


15th September, 1997



 ベックのメジャー・デビュー・アルバム『メロウ・ゴールド』を共同プロデュースしていたカール・スティーヴンソンのソロ・ユニットが、フォレスト・フォー・ザ・トゥリーズだ。実際にほとんどの楽曲がレコーディングされたのは、『メロウ・ゴールド』の制作と並行して、1992年から93年にかけてのことだったらしいが、アルバム完成後、スティーヴンソンの不安神経症が悪化したため、当時契約を結んでいたゲフィン・レコードが精神状況の回復を待ってオクラ入りにしていたものだとか。

 が、ここにきてレコード会社およびスティーヴンソンの両親が、作品を世に出しても大丈夫だと確信する程度に本人も回復したようで。レーベルをゲフィン傘下のドリームワークスに移して、いよいよ待望のリリースが実現したというわけだ。

 なるほど、「ルーザー」をはじめとする『メロウ・ゴールド』の共同制作者ならでは、というか。会ったとたんにベックと意気投合した男が作ったアルバムとはっきりわかる、実に刺激的な混合音楽がここにある。バグパイプ、シタール、タブラといったエスニック楽器の音色や、デジタル・アラームやらモデムの接続音といったデジタル・ノイズが、ヒップホップふうのくすんだビート感に乗って交錯。ホーム・スタジオでのレコーディングゆえの閉塞感は確かに全編を覆っているが、内省的な歌詞の世界とのマッチングは悪くない。デジタル世代ならではのサイケデリックなコラージュ感覚のようなものが見事に表現されている。

 ベックのように、ライヴでも自らの音像を再現できるだけの肉体性を持ち合わせているのかどうか、なんとも判然としないのだけれど。少なくともアルバムに関してはかっこいい仕上がり。3年以上前の作品とはいえ、新鮮さは失われていない。


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