Kenta's ... Nothing But Pop

The Songs Of
Jimmie Rodgers:
A Tribute
Various Artists
(Egyptian/Columbia)


8th September, 1997



 独特のヨーデル唱法から“ブルー・ヨーデラー”と呼ばれたり、もともと鉄道員として働いていたことから“歌うブレーキマン”と呼ばれたりしながら1920〜30年代、大いに人気を博し、アメリカン・カントリー・ミュージックを完成へと導いた偉大な男、ジミー・ロジャース。1933年に病気のため36歳の若さで他界してしまった彼の生誕100年を祝って制作されたトリビュート・アルバムが出た。

 ジミー・ロジャース。ぼくも思い切り好きだ。高校生だったころ、たぶん1971年とか72年とか、その時代に日本でジミー・ロジャースの7枚組だか8枚組のアナログ・ボックス・セットが出たことがあった。お年玉&バイト代をつぎこんでそいつを買って、毎日聞きまくったものだ。

 なぜジミー・ロジャースに行き着いたんだったか、全然覚えていないけれど。当時ぼくはニッティ・グリッティ・ダート・バンドの大ファンで。彼らのおかげでハンク・ウィリアムスとかビル・モンローとか、カントリー/ブルーグラスのオリジネイターたちのことを意識するようになっていた。たぶんその流れでジミー・ロジャースにもたどり着いたんだろうと思う。

 そうそう。ジョン・フォガティがでっちあげた架空のバンド、ブルー・リッジ・レインジャーズがジミー・ロジャースの曲をカヴァーしたこともあったし。大滝詠一師匠がファースト・ソロ・アルバムに収めた「朝寝坊」って曲で、このジミー・ロジャースが得意にしていたヨーデルを真似していたこともあった。いや、師匠の真意は知らないけど。少なくともジミー・ロジャースが一大マイ・ブームだったぼくにはそう聞こえた。

 高校からの帰り道、千代田線の新御茶ノ水を経由するので、小川町にある「ハーモニー」ってレコード屋さんによく寄り道をした。今は確かクラシック専門になっているらしいんだけど、そのころはクラシックとカントリー専門店という、もう、何がなんだかわからない専門店で(笑)。そこでマール・ハガードとか、ボブ・ウィリスとか、そのテのカントリー・グレイツたちの盤にたくさん出くわした。確か、その店の棚に飾ってあったんだよなぁ、ジミー・ロジャースのボックス・セットも。買うのは一大決心だったなぁ。おかげで、その直後に出たハンク・ウィリアムスの10枚組には手も足も出なかったなぁ。あー、懐かしい。

 ジミー・ロジャースは20〜30年代に活躍した人なので、当然、レコードに記録された音もむちゃくちゃ古くて。当初は「こりゃキツイもの買っちゃったかな」と弱気になったものだけれど。でも、大枚つぎこんで買ったものだから、とにかくボックス・セットをくまなく聞き込んで。そのうちにジミー・ロジャースの奥深い魅力にずぶずぶハマりこんでいった。カーター・ファミリーと共演していたり、ルイ・アームストロングと共演していたり、スティール・ギターを使ってハワイアンの要素を導入していたり……。ブルース、フォーク、ジャズ、ハワイアンなどを積極的に融合しながらアメリカン・ポップ・ミュージックの土台をクリエイトしつつある男の姿に胸が震えた。

 と、そんなジミー・ロジャースに対するそれぞれの思いを今回出たトリビュート・アルバムで披露しているのは、ボブ・ディラン、スティーヴ・アール、ボノ、ディッキー・ベッツ、メアリー・チェイピン・カーペンター、アーロン・ネヴィル、ドワイト・ヨーカム、アリソン・クラウス&ユニオン・ステーション、ジョン・メレンキャンプ、ヴァン・モリソンなどなど。ジェリー・ガルシアとデヴィッド・グリスマン、ジョン・カーンの共演トラック(これがガルシアの最後のスタジオ・レコーディングだとか)もあるし、ドン・ウォズがプロデュースしたウィリー・ネルソンのトラックもある。

 淡々としたロジャースの曲に潜む深い深い味わいを、それぞれのやり方で引き出して聞かせてくれる本当にうれしいトリビュート・アルバムだ。


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