Kenta's ... Nothing But Pop
..Reviews (Contemporary): 7/30/1997



Reviews   Music

The Inner Flame
Various Artists
(Atlantic)

 闘病生活を送っているフォーク/ブルース・シンガー、Rainer Ptacekを支援するために制作されたチャリティ・アルバム。共同プロデュースをつとめたロバート・プラントをはじめ、ジミー・ペイジ、エミルー・ハリス、ヴィクトリア・ウィリアムス&マーク・オルソン、ヴィック&ティナ・チェスナット、PJハーヴェイ、ジョン・パリッシュ、ジョナサン・リッチマンなどなど、様々な分野の連中が集い、レイナーの作品をそれぞれのやり方でカヴァーしている。ナショナル・ギターやドブロの名手として知られるレイナー自身も何曲かに自ら参加。聞く者の胸を震わせてくれる。

 ストレートにアコースティカルなアプローチをする人がいるかと思えば、ハイブリッドに迫る人もいる。参加ミュージシャンみんな、自分のスタイルをくずすことなく、しかしレイナーへの敬愛の念をきっちり表明した仕上がり。レイナー作品を通して、アメリカン・ルーツ・ミュージックの奥深さを思い知ることができる1枚だ。

Interiors
Brad
(Epic)

 パール・ジャムのストーン・ゴサードによるサイド・プロジェクト。とはいえ、2枚目にあたる本盤は、かなりバンドっぽい仕上がりだ。いかにもシアトルふうのグランジ色がただよう曲もあるけれど、全体的なトーンはもっとポップ。ぱきっと爽快なピアノで始まる「The Day Brings」とか、70年代半ばごろ、ちょっとソウル方面に色気を出したシンガー・ソングライターのアルバムあたりに入っていたようなタイプの曲で。おぢさん、妙に懐かしい気分になっちまいました。「Some Never Come Home」なんか、往年のニール・ヤングみたいだし。

 ファルセット・ヴォーカルが切ない「I Don't Know」もいい曲。70年代サザン〜スワンプ・ロックみたいな手触りの曲もあるし。嫌いじゃないです。

Songs From Northern Britain
Teenage Fanclub
(Creation/Columbia)

 この人たち、最初のころはビッグ・スターとか、そのテのパワー・ポップ・バンドを真似していた印象が強かったけれど。この6枚目のアルバムでは、いつの間にやらザ・バーズみたいになっちゃった(笑)。ローリング・ストーン誌のレコード・レビューを読んでいたら“次はどうするんだ? イーグルスか?”みたいな皮肉が書かれていたっけ。

 でも、なかなか楽しい仕上がりだ。あまり批評性のないアプローチではあるけれど、とりあえず今、本人たちが60年代アメリカン・フォーク・ロック・サウンドを好きで好きでしょうがない感じはしっかり伝わってくる。それが本盤のすべてって感じ。もともとそういう気分で接すればいい1枚でしょう。おセンチでそこそこいい曲が揃っている。

Venus Again
The Vents
(MCA/Way Cool/Cargo)

 ビートルズをラウドにしたみたいな持ち味のイギリスのバンド。これがアメリカへのデビュー盤にあたるそうだ。ぼくもこれが初体験。ビートルズっぽい曲をラウドに演奏する……っていうと、要するにラズベリーズとかバッドフィンガーとかに端を発するパワー・ポップの仲間みたいな感じだけど。何かが違うんだよなぁ。

 ラズベリーズとかトッド・ラングレンとかチープ・トリックのような米アーティストがビートルズら往年の英国ポップへ投げかけるまなざしと、ニック・ロウとかデイヴ・エドマンズのような英アーティストがビートルズの向こう側にあるエヴァリー・ブラザーズやバディ・ホリーら米国ロックンロールにアプローチする感触。一見別モノとも思えるこの両者に通底する、こう、なんともポップな、でもどこか屈折をはらんだ“手触り”こそがパワー・ポップの正体だと思っているぼくにとっては、このザ・ヴェンツさんたちはちょっとまっすぐすぎるかな。

 でも、わりと好感持ちました。ぼんやり聞くには悪くない。

Via Satellite
Super Deluxe
(Revolution)

 セカンド・アルバム。今や懐かしい感すらある真っ当なギター・ポップを聞かせてくれる1枚だ。こいつらもビートルズを起点とするポップ・センスにちょっぴり屈折したアプローチを仕掛けている連中だけれど、歌詞の曲がり具合や音像のひねり具合が、なにやらちょうどいい不安定さを醸し出していて。惹きつけられる。

 “オーライ、オーライ”とか“オー・イエー、オー・イエー”とか、随所に挿入されるキャッチーなフレーズがポップス・ファンの甘い記憶をくすぐってくれるね。アルバム中盤、少々だれるけど、後半また盛り返す。バカっぽさは少なめながら、これはパワー・ポップって感じ、しますわ(笑)。

Floored
Sugar Ray
(Lava/Atlantic)

 スーパーキャットのラガマフィンをフィーチャーした大ヒット・シングル「Fly」を含む、確かセカンド・アルバム、だよね。デヴィッド・カーンのプロデュースのもと、また暴れてます。メタル・ヒップホップ・パンクって感じの轟音ポップ。オレンジ・カウンティを拠点にしているだけあって、スカッと、ボコッと、むずかしいこと全部抜きにしてグルーヴする感じがすごいね。クソ暑い夏、汗がんがんになって聞くにはぴったりかも。頭パーになっちゃいそう。

 アダム・アントの「Stand And Deliver」をカヴァーしてるのも、おいしいぞ。

No Way Out
Puff Daddy and The Family
(Bad Boy)

 パフィといえば、ちょっと前までこの人のことだったんだけど(笑)。バッド・ボーイ・エンターテインメントの大立者、ショーン・“パフ・ダディ”・コムズのデビュー・アルバム。グランド・マスター・フラッシュの「ザ・メッセージ」を下敷きにした「Can't Nobody Hold Me Down」と、ポリスの「見つめていたい」を下敷きにした「I 'll Be Missing You」とを連発で全米ナンバーワンに送り込み、満を持してのアルバム・リリースだ。ご存じの通り、「I 'll Be Missing You」は先日他界してしまったノトリアスBIGに捧げられた曲。未亡人フェイス・エヴァンスのヴォーカルもフィーチャーし、思い切りおセンチに聞く者の胸をしめつけるのだが。やはりこの曲の存在がアルバム全体のムードを決定づけている。エグゼクティヴ・プロデューサーとしてクレジットされているのはビギー。ビギー他界以前の音源も含まれており、4曲ほどでビギーのラップを聞くこともできる。まあ、追悼盤的なニュアンスが強い一枚なのであまり文句も言いたくないのだが、結局のところビギーに寄りかかった仕上がりという印象だ。

 パフィも素晴らしいプロデューサーながら、ラッパーとしては脆弱なところもあり、そこんとこがちょっと引っかかる。“riches and bitches”系の世界を抜け出しきっていない歌詞も今ひとつ。とはいえ、音作りの面はやはり見事。アイデア豊か。前述した「Can't...」、「I'll Be...」に加えてデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」をまんま使った「Been Around The World」とか、おいしいネタを持ってきているし。フル・オーケストラを配した曲もあるし。歌メロを巧妙に各曲に織り込んでキャッチーに聞かせるし。堂々たるポップ・アルバムとして楽しむべき一枚か。




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