Pick of the Week


Whatever And Ever Amen
Ben Folds Five
(Epic)



 ようやく出ました。

 これはもう売れるしかないでしょう。絶対好きだもの、日本のポップス・ファンならば。このアルバムについては『ミュージック・マガジン』誌でレヴューをさせてもらっているので、その原稿をまたもや禁断の無断転載させてもらいます。曲名を番号で書いちゃってるので、わかんないと思いますが、別にわかんなくても支障はないだろうし。そのままいきます。


for Music Magazine, Feb 1997

 来日したとき、レーベルを移籍してニュー・アルバムのレコーディングを進めている、と話してくれたけれど。あれが1年近く前。けっこう時間がかかったな。ともあれ、待望のセカンドの登場だ。

 この人たちの場合、中心メンバーであるベン・フォールズの卓抜したメロディ・センスが人気の一因。といっても、ヒップホップ、オルタナ以降、変わるべくして変わってきたポップ・メロディ感覚ではなく、時代を超えて受け継がれてきた永遠のアメリカン・ポップ・メロディの感覚。ベン・フォールズは「作曲家としてはニール・セダカがいちばん好き」と語っていたっけ。彼らが特に日本でウケるのは、たとえばフヌけたスウェディッシュ・ポップとやらが日本で分不相応な人気を博しているのと同じ理由からなのかもしれない。本場アメリカの音楽シーンが忘れてしまった往年のアメリカン・ポップ・メロディへの憧憬というか。もちろん、ベン・フォールズのほうは本国アメリカから出てきたアクトだけに、大方のスウェーデンものに付き物のヴァーチャルな手触りはない。同じベクトルをたどりながらも、腰の強さとフトコロの深さを武器に、見事な説得力を獲得。その辺の感覚は今回のアルバムでも炸裂している。70年代のニール・セダカとか、当時の彼をバックアップしていた10CCやエルトン・ジョンあたりにも通じる、洗練と屈折とが絶妙に交錯するメロディの雨アラレ。ランディ・ニューマンやヴァン・ダイク・パークス的な抗いようのないアメリカン・ノスタルジアも健在だ。歌詞のひねくれ具合も相変わらず。

 が、サウンドのほうはちょっと変わった。ファーストで聞かれた、こう、なんというか、オルタナ・ギター・バンドに負けないパワーをピアノ・トリオで…みたいな意図は、少々後退。日本公演でも新曲として披露されていた4あたりはファーストの延長上にあるパワー・ポップだが、ほとんどの曲は歌詞の持ち味に寄り添うように少し内省的になっている。曲によってオルガンが加えられたり、ストリングスがあしらわれたり。シンガー・ソングライターとしてのベン・フォールズのアルバムという感じか。その辺を物足りないと感じるリスナーがいるかもしれない。オルタナ系バンドが飽和状態となり、新感覚のシンガー・ソングライターたちの台頭に注目が集まる昨今のアメリカの音楽シーンの動向を見据えた変化なのかな。だとしたら、けっこう的を得たやり口とも思える。

 やはり来日公演で演奏された1や9、トリッキーな8分食いのリフとポップなメロディとの組み合わせがかっこいい6(96年暮れにベンと結婚した奥様のことを歌ったものだとか)などが聞きもの。日本盤のみ、4の日本語ヴァージョンをボーナス収録している。