Reviews   Music


Muddy Waters
Redman
(Def Jam)


 今のヒップホップ・シーンでもっともファンキーな男じゃないかな。レッドマン。往年のファンカデリックを思わせる生首ジャケットもすさまじかった前作に続いて、今回は泥まみれジャケットで、タイトルは“マディ・ウォーターズ”ときた。

 メソッドマン、キース・マレー、Kソロなどゲストが参加した曲もあるが、基本的には自信たっぷりに我が道を展開するツクリ。音作りもヘタに凝ることなく、ファンキーにリフレインを繰り返すベースラインをドカッと中心に据えたシンプルな仕上がりだ。バックトラックだけ取り出すと、タイトルとは裏腹に、前作ほどのドロドロ感覚はなし。その辺、物足りないという意見も多いみたいだけど。が、そんなシンプルな音をバックに従えて、しかしレッドマンは一層パワーアップした、ぶっとく強いラップを聞かせるのだ。これもまた男って感じ。かっこいいぞー。



Episodes Of A Hustla
Big Noyd
(Tommy Boy)


 モブ・ディープの2枚のアルバムにフィーチャーされていた弟分的存在、ビッグ・ノイドのデビュー・アルバムだ。といっても、モブ・ディープがほぼ全面的にプロデュース/ラップで参加しているので、なんだかモブのアルバムみたい。主役の存在感は薄いぞ(笑)。

 音のほうは、とにかくモブをイメージすればOK。ラップのほうは、モブよりもちょっと線が細い。なんだか頼りないけど、きっとまだ若いんだろうね。期待の星であることは間違いなしだ。さて、迷いまくりのヒップホップ・シーンで自分の位置を見つけられるかな。どういう形で一本立ちできるのか。とりあえず次作を楽しみにしてます。



II
Moistboyz
(Grand Royal)


 近ごろはカントリーにまで手を出して、屈折に満ちたポップ感覚を全開にしているウィーンの別プロジェクトがモイストボーイズ。彼らが2年ぶりに放ったセカンド・アルバムだ。ハイパー・スラッシュ・ハードコア・オルタナ・ロックの情けないやつ……って感じかな。ぐるぐるしてて、けっこう吸引力あり。面白い。

 2年前にファースト・ミニ・アルバムをリリースしていて、ぼくはそっちを聞いていなかったのだけど、去年の暮れ、1枚目とこの2枚目をまとめて収録した日本盤が出た。その日本盤について、ミュージック・マガジン誌のクロス・レヴューに書かせてもらった原稿を、はい、無断転載です。

 日本盤前半に収められたファーストの曲は今回はじめて聞いた。けっこう一途だったのね。個人的には洞察力を増したセカンドの音のほうが好きだけれど、どっちにしてもジェイソン・フォークナー同様、かなり過去の音楽を聞き込んだ連中ならではの一枚。過去の遺産を愛し、知り抜いたうえでの狼藉なわけで。聞き手も相応の覚悟で対応しなきゃこいつらの本意は結局わからないんだと思う。

from Music Magazine (Feb, 1997)




Sunfish Holy Breakfast
Guided By Voices
(Matador)


 でね。ぼくとしては、情けなくも破壊力のあるオルタナとして、こっちのバンドのほうが好きだったりするわけです。ガイデッド・バイ・ヴォイシズ。

 80年代の終わりごろからいろんなレーベルを股にかけて、とんでもない勢いでアルバムやらシングルやらをリリースし続けてきた彼ら。去年の春ごろにアルバム『Under the Bushes Under the Stars』を出して、そのあとメンバーのロバート・ポラードとトビン・スプラウトのソロ・アルバムも出して。で、またまた間髪入れずに登場したのが本盤。過去のアルバムからのアウトテイクとか、シングルのみの曲とかを全10曲ぶちこんだミニ・アルバムだ。

 7インチ・シングルのみで出ていた「イフ・ウィー・ウェイト」とか、名曲の誉れ高いことは雑誌とかで読んで知っていたものの、ぼくは今回はじめて聞いた。ロバート・ポラードの投げやりな切なさがたまらない一曲。アンデンティティの不確かさをクールに綴った歌詞と、彼ら独特の内省的に炸裂するギター・サウンドとが見事に合体している。

 前作のセッションからの曲らしき「コックソルジャーズ・アンド・ゼア・ポストウォー・スタブル」って曲もかっこいい。寄せ集め盤ながら、“まともな骨格をした曲はひとつもないのになぜか胸に残る”GBVの本領が詰まった一枚ですわ、これ。



The Third Rail
Railroad Jerk
(Matador)


 ニューヨーク/ニュージャージーを拠点にするレイルロード・ジャークの、んー、何枚目だ? 4枚目か? サード・レイルってぐらいだから3枚目? よくわかんないです。たぶんそんくらいだと思いますが。とにかく新作です。

 相変わらず、ブルース、R&B、ジャズ、フォーク、レゲエ、パンク、グランジなど、古今の要素をぐしゃぐしゃに取り込みながら、とぼけたような、毒があるようなロックンロールを聞かせてくれる。ファンクとロカビリーが合体したみたいな「ナタリー」って曲とか、盛り上がりました。

 かつて60年代の終わりごろに、サンフランシスコからアメリカ南部を幻視したクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルとかと同じベクトルがこのバンドにも感じられて、おぢさんとしてはうれしかったりするんだよ。そうそう。ジョン・スペンサーもレイルロード・ジャークが大好きなんだってさ。



Powerbill
The Semantics
(Alfa International)


 ベン・フォールズがかつてマジューシャというバンドの一員として活動していたことはファンにはおなじみだろう。そのマジューシャのメンバーの一人だったミラード・パワーズが結成したポップ・ユニットがセマンティックス。メンバーはミラードのほか、やはりベン・フォールズの知り合いだったウィル・オウズリーとザック・スターキー。ザック・スターキーってリンゴ・スターの息子だよね? 違ったかな。

 ベン・フォールズともども、ノース・カロライナ・ポップとか呼ばれたりするのかも。グランジ以前のギター・ポップとでも言いましょうか。トッド・ラングレンやジェリーフィッシュあたりにも通じる、かなりいい感じに屈折した音が楽しめる。そのセンが好きな方は要チェック。

 完全日本先行発売なのだとか。でも、ジャケットには“(c)1993 Geffen”の文字。どういうこと? ゲフィンで録ってオクラになっていたってことでしょうか。もったいない。



Believe What I Say
James Hunter
(Ace)


 ヴァン・モリソンのR&Bレビューに参加しているジェームス・ハンターの初ソロ・アルバム。イギリスからときどき出てくるタイプの、アメリカ人まさりの渋いブルー・アイド・ソウル・シンガーだ。

 ギター、生ベース、ドラムにサックス2本という、聞いただけでワクワクする編成を基本に、曲によってハモンド・オルガンやウィリッツァーのエレピを加えたサウンドがハードボイルドです。ヴァン・モリソンはもちろん、近頃では『ママ・アイ・ウォント・トゥ・シング』でおなじみのドリス・“ジャスト・ワン・ルック”・トロイなどをゲストに迎えて、レイ・チャールズやらボビー・ブランドやらのカヴァーも織り交ぜつつ、R&B真っ向勝負だ。

 情熱と経験がうまく活かされた好感度ばっちりの佳盤。



Shootout
Mother Hips
(American Recordings)


 去年の10月か11月に買ったCDですが。買ってすぐ、どこに行ったかわかんなくなっちゃって(笑)。最近、ようやく見つけたのでとりあえず載せときますね。

 これが3枚目。アメリカン・レコーディングズ所属アーティストらしい、シンプルで土臭くてどこか懐かしいロックンロールを聞かせてくれる。バッファロー・スプリングフィールド〜CSNあたりが明快なルーツかな。曲によってはビーチ・ボーイズみたいなコーラスがからむものもあったりして。ヴァーチャルな60年代ウェスト・コースト・ロックって感じ。フライング・ブリトー・ブラザーズみたいなカントリー・ワルツもある。そうとうなロックおたくなんだろう。

 けど、同レーベル所属のフリーホイーラーズやピート・ドロージやダン・ベアードあたりに比べると、ちょいパワー不足。おたくっぽさのほうが目立っちゃってるところが今いちかも。