Pick of the Week

Title

The Carnegie Hall Concert / June 18, 1971
Carole King
(Ode/Epic/Legacy)



























A Natural Woman:
The Ode Collection (1968-1976)

Carole King
(Ode/Epic/Legacy)
 素晴らしい音源の発掘です。

 キャロル・キング。彼女が1971年にリリースして、なんと15週間全米ナンバーワンに輝いたうえ、計302週間にわたってチャートにランクし続けた大傑作アルバム『つづれおり(タペストリー)』のことは、たぶん音楽ファンなら誰でも知っていると思うけど。そんな盛り上がりのさなか、ニューヨークのカーネギー・ホールでライヴ録音された音源をついに正式CD化したのが本盤だ。

 60年代には主に他人にヒット曲を提供する職業作曲家として大活躍した彼女が、70年代に入って自らの声で自らのメロディを表現。その深い深い味わいに当時の若者(含むハギワラ)は落涙したわけですが。

 考えてみれば、キャロル・キングがソングライターとして第一期黄金時代を迎えたのが60年代初頭から半ばにかけて。いわゆるプレ・ビートルズ時代。当時の旦那だったジェリー・ゴフィンとコンビを組んで、「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」(シレルズ)やら「ロコモーション」(リトル・エヴァ)やら「アップ・オン・ザ・ルーフ」(ドリフターズ)やら「さよならベイビー」(ボビー・ヴィー)やら「ゴー・アウェイ・リトル・ガール」(スティーヴ・ローレンス)やら「ヘイ・ガール」(フレディ・スコット)やら、もうそれこそ無数のヒット曲を量産していた。バリー・マン&シンシア・ウェイルとかニール・セダカ&ハワード・グリーンフィールドとか、そういった他のソングライター・コンビとしのぎを削るようにして、ポップでドリーミーでちょっぴりソウルフルな名曲を次々と生み出した。

 そんなアメリカン・ポップスの在り方に影響を受けた二人のイギリス人が、アメリカのソングライター・コンビを真似て自ら“レノン=マッカートニー”と称し、世界を席巻しはじめたのが1964年。このイギリス人ソングライター・コンビを含むビートルズのおかげで、しかしチマタは自作自演バンドの天下に。キング&ゴフィンをはじめとする職業ソングライターたちは地味な存在へと追いやられてしまった。

 キング&ゴフィンがクッキーズのために作った「チェインズ」を、ビートルズが天真爛漫にカヴァーしていたのも、今にして思うとなんだか皮肉だ。そうそう。ビートルズを筆頭とするイギリス勢に対抗するため、アメリカ音楽業界の親玉、ドン・カーシュナーが総力をあげて送り出したモンキーズにもキャロル・キングは楽曲を提供していたっけ。なかなかに複雑な歴史の皮肉だけれど。

 そうこうするうちに、ビートルズはどんどんロックンロール/ロックという文化の可能性を広げ、その影響のもと、当時の混乱した社会情勢の中、若者が団結するための旗印としてロックが注目を集めるようになり、ロックを取り巻く共同幻想が渦巻き、ウッドストック、オルタモントの悲劇、ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリンの死……。

 時代はぐんぐんと沈静化していった。ロックの可能性を広げるキッカケとなったはずのビートルズ自体も、このころにはすでに実に歯切れの悪い解散劇を演じていた。ロックを拠り所に革命を起こせるかもしれない、と熱く燃え上がった60年代ははるか記憶の彼方へ。幻想は幻想でしかなかった。そんな事実に誰もが気づき、諦めが時代を支配しはじめた。とともにアメリカでは、熱い連帯への思いをたぎらせたロック系の音楽が生気を失い、代わって、ひたすら内省的な手触りをもつシンガー・ソングライターたちの音楽が静かなブームを呼びはじめる。

 70年に火と雨の混乱を潜り抜けたあとの空虚さを歌った「ファイアー・アンド・レイン」を全米3位にランクさせたジェームス・テイラーをはじめ、ジョニ・ミッチェル、ニール・ヤング、ジャクソン・ブラウン、ランディ・ニューマンなど。彼らは洗いざらしのジーンズにカントリー・シャツを無造作に着こなし、ごく私的な体験や内面の揺らめきを、ナチュラルなアコースティック・サウンドに乗せて歌っていた。

 彼らが歌っていたのは常に“個”。鎮静しつつあった時代の気分をぴったりと言い当てていた。

 そして「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」に代表されるように、“私”と“あなた”のことだけを淡々と歌い綴ったキャロル・キングの歌声も、醒めた時代の中でぼくたち聞き手の心にさりげなく、心地好く、しかし確かな手応えとともに忍び込んできた。時代の移り変わりとともに活動の場を奪われながら一時は半引退生活を送っていたキャロル・キングは、しかし再び時代の要請とともにシーンの最前線にカムバックしてきたわけだ。

 そんなふうにしてシーンに舞い戻ってきたころのキャロル・キングのありのままを聞くことができる今回のライヴ盤。ほとんどの曲がピアノ一本の弾き語りで演奏される。途中から、当時のご主人、チャールズ・ラーキーがベースで加わり、さらに旧友、ダニー・コーチマーがギターで参加。曲によって2本ほどのストリングスも入る。主に『タペストリー』『ライター』『ミュージック』といったアルバムからの選曲。『タペストリー』でもバック・コーラスに参加していたメリー・クレイトンに書き下ろした「アフター・オール・ジス・タイム」の自演ヴァージョンも聞けるのがうれしい。

 そして、アンコールではサプライズ・ゲストとしてジェームス・テイラーが登場。「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」(以前、キャロルのオード・レコード時代の代表曲を詰め込んだ2枚組ボックスにボーナス追加されていた同曲はこのときの録音だ)と、キャロルがかつて他のシンガーのために書いた「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」「サム・カインド・オヴ・ワンダフル」「アップ・オン・ザ・ルーフ」のメドレーをデュエットする。これがね、泣けるんだ。まじに。

 このセルフ・カヴァー・ヴァージョンは、彼女とジェリー・ゴフィンが何年も何年も前に作り上げた楽曲が、しかし時代の変化などものともせず、永遠の感動を聞き手に伝えてくれることを証明してみせる。

 しみる一枚です。