2000.11.17

Area Code 615/
Trip In The
Country

Area Code 615
(Koch)


 ついについに。CD化が実現した。エリア・コード615。

 60年代末、ボブ・ディランや、モンキーズのマイク・ネスミス、イアン&シルヴィアらのレコーディング・セッションに参加したのをきっかけに、旧態依然としたカントリー音楽以外の世界にも強く惹かれはじめたテネシー州ナッシュヴィルの新進気鋭スタジオ・ミュージシャン群が、より幅広い可能性を模索して結集。ナッシュヴィルの市外局番をもじった“エリア・コード615”なるグループ名でリリースした69年のファースト・アルバムと、70年のセカンド・アルバムの2オン1CDだ。

 未CD化のまま埋もれている70年代カントリー・ロックの名盤をCD化再発してほしい…ってことで、まったく個人的に“カントリー・ロック名盤再発促進委員会”をでっちあげ、レコード・コレクターズ誌の連載コラムで騒ぎ始めたのが1996年。そのころからずっと再発してくれ再発してくれとお願いしていたのが本盤。ポリドールにかけ合ったりして。ポリドールのほうもアメリカに権利のクリアランスをオファーしてくれたり。

 けど、なにせここに参加しているミュージシャンってのは、今やそれぞれ一国一城の主。中にはナッシュヴィルの音楽シーンを代表するエグゼクティヴにまでのしあがった人もいて。権利関係がすっげえややこしいってことが判明。基本的には中心メンバーのウェイン・モスが納得すればOKって感じではあったのだけれど、なにやらアナログ盤ならば復刻OKだけどCDに関しては当時そういう契約をしていないからすぐには無理、とか(笑)。いろいろ言われて。

 やっぱりダメか、と。なので、うちにあるアナログ盤からCD−R作ったりして。それでとりあえず満足してたんだけど。そうこうするうちに、様々なジャンルの再発をやっているKOCHが話をまとめたってニュースが飛び込んできた。1年ぐらい前だったかな。それがようやく実現したわけだ。いやー、うれしいねー。

 参加ミュージシャンは、前述したウェイン・モス(ギター)、ノーバート・パトナム(ベース)、ケニー・バットリー(ドラム)、チャーリー・マッコイ(ハーモニカ)、デイヴィッド・ブリッグス(キーボード)、ボビー・トンプソン(バンジョー)、バディ・スパイカー(フィドル)、ウェルドン・マイリック(ペダル・スティール)、マック・ゲイドン(ギター)。曲によって、一時ウッドストック在住だったこともある、あのケン・ローバーもピアノで加わっている。すごいね。この顔ぶれ。エルヴィス・プレスリー、J・J・ケイル、デイヴ・ロギンス、ブルーワー&シップレー、ダン・フォーゲルバーグ、クリス・クリストファーソン、ロニー・マック、マンハッタン・トランスファー、ミッキー・ニューベリー、バフィ・セント・メリー、ジェリー・ジェフ・ウォーカー、エリック・アンダースン、トニー・ジョー・ホワイトなどのアルバムで見まくった名前ばかり。

 そんなそうそうたる面々が、69年のファーストのほうでは、ビートルズ・ナンバーをカヴァーしたり、ディラン・ナンバーを取り上げたり、オーティス・レディングのソウル・バラードに挑んだり、カヴァー曲中心に持ち前の超絶テクニックを駆使し、様々な実験的レコーディングを聞かせている。70年のセカンドのほうではオリジナル曲の割合を増し、ヴォーカルなども随所に交えつつ、よりハードに、ソリッドに、ファンキーに、刺激的な音楽性の融合を行なっている。

 60年代末といえば、たとえばグラム・パーソンズ〜フライング・ブリトー・ブラザーズとか、ポコとか、ボブ・ディランとか、ザ・バンドとか、その辺のロック/フォーク寄りの連中が、混乱した時代性のもと、再度自分たちの足下を見直そうとアメリカ南部の伝統音楽に熱いまなざしを送っていた時代。そんなふうに自らのルーツを深く見直そうとする一派と、エリア・コードのようにルーツをきわめた地点から他の音楽性に向けて貪欲に進もうとする一派と。深化と進化。両者が絡み合いながら、やがて70年代、イーグルスを頂点とするカントリー・ロック・ムーヴメントが花開くことになる。

 とにかく、エリア・コード615の試みが、ナッシュヴィルのみならず、当時の南部〜西海岸、そしてイギリスの意識的ミュージシャンたちに与えたインスピレーションは計り知れない。その度合は、たぶんザ・バンドのそれとタメはるほどだろう。

 カントリーとR&Bが分かちがたく混在する、この味こそがアメリカ南部の底力だ。アイリッシュ・リールっぽいフィドルやバンジョーのフレーズを、ノーバート・パトナム&ケニー・バットリーによるごっきげんなリズム隊の16ビート・グルーヴがバックアップする。このスリリングなコンビネーションを聞くだけで、鳥肌ですわ。他にも、ぐっとエスニック度を強めたポリリズムっぽいアプローチが聞かれたり、心洗われるような美しいバラードがあったり。

 ミュージシャンシップの何たるかを思い知らせてくれる、本当に躍動的な2オン1CDです。未発表曲2曲のおまけつき! うひゃーっ。


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