2000.7.20

Sunflower/
Surf's Up

The Beach Boys
(Capitol/Brother)


 ボーナス・トラック入りのブートまで出ていた『サンフラワー』(70年)と、数年前にアナログでのみ再発が実現していた『サーフズ・アップ』(71年)の2イン1。出ました。91年、エピックで一瞬CD化されたものの、ソッコーで廃盤になってからはえんえん入手困難状態で。


Surf's Up
(1971)
 でも、これで高騰していた中古盤市場も落ち着くことでしょう。ちなみに、これの日本盤は8月末に出る予定。2イン1じゃなく、オリジナル・アルバムごとのリリースになる。これに関しては様々意見が分かれるだろうな。ぼくとしては、以前も書いたことがあるように、最近はオリジナル・アルバム単位でのCD化のほうが好きだ。たとえば今回の場合だったら、やっぱり『サンフラワー』は「クール・クール・ウォーター」で終わってほしいし。そのあと、いきなり「ドント・ゴー・ニア・ザ・ウォーター」が出てきちゃうっていうのは、まあ、ウォーターつながりだから(笑)悪くないと言えなくもないのだけど……オリジナル・アナログ盤で繰り返し繰り返し聞き続けてきた身としては、やっぱりなんだか座りが悪い。もちろん2イン1のほうが値段は割安だし、場所もとらないし。そういう長所はあります、確かに。それもわかってます。

 まあ、どっちでもいいや。以前、『レコード・コレクターズ』誌にも書いたけど、とにかく出ていてくれなきゃ。長く廃盤だったせいかブラザー/リプリーズ期のビーチ・ボーイズへの評価が、未体験世代からの期待感も含め高まりすぎたきらいもないではないものの、それにしたって『サンフラワー』『サーフズ・アップ』『カール&ザ・パッションズ』『ラヴ・ユー』『MIU』『キーピング・ザ・サマー・アライヴ』といったごきげんなアルバム群が根こそぎ廃盤状態のままじゃ困る。話にならない。

 そうそう。『15ビッグ・ワンズ』のことを“最悪の仕上がり”だとかワケ知り顔で酷評している自称ビーチ・ボーイズ・マニア系評論家さんがいるけどさ。あの人、ぜったいあのアルバム(つーか、ブラザー/リプリーズ期の諸作)をリリース当時に聞いてないね。全部、後付けだね。まあ、それはいいか(笑)。余談でした。とにかく『15ビッグ・ワンズ』だってよーく聞き込むとなかなか発見の多い1枚で。これも出てなきゃいかんわけですよ。全部出揃ってこそ正当な評価が可能なのだから。まずはその第一歩が順調に踏み出されたってところだ。

 アルバムの詳しい内容については、その、8月に出る日本盤のライナーに書かせてもらったので、もしよかったらそれを読んでやってください。深く深く内面へと忍び込んでいくかのような『サーフズ・アップ』のアナログB面も、当時高校生だったぼくの心をぐいぐい締め付けたものだけれど。やっぱり『サンフラワー』かなぁ。毎日こればっかり聞いて過ごしていたっけ。今も大好き。これまでの人生で、どう少なく見積もっても1000回は聞いているはず。もっとか?

 さっき、つい偉そうなことを言ったぼくですが。ビーチ・ボーイズに関して、ぼくも出遅れた世代だ。60年代半ばまでの全盛期はまったくリアルタイムでの体験なし。はじめて買った彼らのシングルは69年の、しかもカヴァー曲「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」だった。一般的な人気もどん底時代。そんなころ、71年にアメリカより半年遅れで国内発売された本盤が届けられた。当時の日本盤は「コットンフィールズ」の70年ヴァージョンをA面トップに追加収録したもので。ライナーに詳しいビーチ・ボーイズ年表とかも載っていて。まじ、勉強になりました。でもって、このアルバムを契機に一生こいつらについていくぞと決心した。温かくて、広がりがあって、勢いがあって、ポップで、きらきらしていて。当時セールス的には惨敗だったものの、ガキのころからラジオ小僧として音楽に親しんでいたぼくを、さらなる泥沼に引きずりこんだ恐るべき1枚。がんばって早起きして、学校行く前に1回聞いて、学校から帰ってくるとまた聞いて……。

 ただ、こういう音楽は、あのころ他にほとんどなかったな、とも思う。ぼくはどういう音楽と一緒に聞いてたんだっけ? 71年ごろのぼくが聞きまくっていた他のアーティストというと、ニルソンとか、スリー・ドッグ・ナイトとか、CSNYとか、ポコとか、ザ・バンドとか、CCRとか、ジェームス・テイラーとか、キャロル・キングとか、はっぴいえんどとか、エルヴィス・プレスリーとか……(なんだよ、今とあんまり変わってないぞ)。ニルソンあたりとは近い感触を抱いていたかも。CSNYのアルバムでグラハム・ナッシュが聞かせていた世界とかとも共通項を感じた覚えがある。

 けれども、結局そのどれとも違う、もっと開放的で、もっと祈りにも近いような手触りが『サンフラワー』には満ち満ちていた。「コットンフィールズ」の新ヴァージョンで始まっていたせいもあるのかな。とにかく全編にふくよかな、誰にも真似できないコーラスが溢れている感じで。特に「アド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ」ね。あの曲にこめられた、邪気のまったくない、音楽への深く純粋な感謝の念に貫かれた世界観は、大人一歩手前のあのころのぼくのモヤモヤしたようなワクワクしたような心を浄化してくれたものだ。デニス必殺の「フォーエバー」にもヤラれた。浮遊感に満ちた「アワー・スウィート・ラヴ」がぼくの眼前に広げてくれたイメージもかけがえのないものだった。いまだにタイトルを聞いただけで胸がときめく「ディードリ」も、ほのぼのとした「アット・マイ・ウィンドウ」も……。そして、きわめつけは牧歌的な手触りと抽象的な美とが刺激的に交錯する「クール・クール・ウォーター」。

 71年ごろっていうと、より内省的で、パーソナルな手触りをともなったシンガー・ソングライター系の音楽が“旬”だった。それは時代が求めていたものでもあった。そういう意味では、このビーチ・ボーイズの『サンフラワー』って1枚は、『サーフズ・アップ』とかには感じられた“時代との関わり感”をまったく持っていなかったのかも。でも、考えてみれば、それだったからこそオリジナル・リリースから30年という歳月を経た今も、このアルバムはまったく輝きを失っていないのだろう。結局、『ペット・サウンズ』もそうだったし、『フレンズ』とかもそうだったし、幻の『スマイル』だってきっとそうだったたはずだし。ビーチ・ボーイズがもっとも素晴らしい輝きを放つ瞬間っていうのは、そういう時代を超えた瞬間なのかも。

In Concert
(1973)


 今回、同時にリリースされたのは73年の2枚組ライヴ『イン・コンサート』。これも楽しいっすよ。ブライアン・ウィルソンは不参加ながら、ブロンディ・チャップリン&リッキー・ファターを含むラインアップによる充実したライヴ・エラを追体験できる。


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