2000.2.16

Both Sides Now
Joni Mitchell
(Reprise)

 ジョニ・ミッチェルがフル・ストリングス・オーケストラあるいはビッグ・バンドをバックに大好きなスタンダード・チューンを歌い綴った1枚。ジョニあねご曰く、“20世紀の愛の歴史”だとか。自作の「A Case of You」と「Both Sides Now」の再演が含まれているところがポイントかな。自作曲も含む過去の素晴らしい愛のメロディに、新鮮なアプローチで接し直した1枚って感じ。


 実際、この上に載せたジャケットによる通常盤が出るのは3月になってからだとか。ぼくが買ったのはバレンタイン・デイ仕様で先行限定発売された右のスペシャル・パッケージ版。古いキャンディ・ボックスを模した入れ物に、CDと、ジョニが描いた4枚のリトグラフと、おしゃれにデザインされた歌詞やクレジット群が入っている。ちょっとかさばるので、音だけ聞ければいいって人は3月を待つほうがいいかも。

 ジョージ・マーティンのエア・スタジオでの録音。ピーター・アースキン、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、マーク・アイシャムらも参加している。同趣向のスタンダード・アルバムは、たとえばリンダ・ロンシュタットやカーリー・サイモンも出しているけれど、ジョニはジャズへの素養がダントツだから。深みは群を抜いている。



Two Against Nature
Steely Dan
(Giant)

for Music Magazine

 昨年のブライアン・ウィルソン来日公演でも感じたのだが。もしあるアーティストがかつて作り上げた斬新な音像なりサウンド・コンセプトなりが今の時代にもそのままの形で有効に機能するのならば、その音楽は疑いなく“現役”なのだと思う。そういう意味でスティーリー・ダンもまたばりばりの現役。そんなことを思い知らせてくれる新作だ。

 特に目新しいものはない。ブルース・コードをジャジーに展開した和声感とか、随所に半端な小節や独特のシンコペーションを交えたファンキーなリズム・パターンとか、時折挿入されるバップっぽいリフとか、テンション当たりまくりのコーラスとか、多少日常的になったとはいえ相変わらずもってまわった感じの語彙とか。すべて想像通りのスティーリー・ダン・サウンド。ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーを核に、腕利きセッション・ミュージシャンを豪勢に配した制作形態も同じだ。間にフェイゲン、ベッカーそれぞれのソロ・アルバムやライヴ・アルバムが挟まれていたものの、バンド名義のスタジオ盤としては80年の『ガウチョ』以来20年ぶりの新作。にもかかわらず、去年からスタートしたフェイゲン&ベッカーによる一連の往年のオリジナル・アルバムのデジタル・リマスタリング再発シリーズと並べて聞いてもまったく違和感のない仕上がりだ。何が何でも新しくなければいけない…という強迫観念にとらわれたタイプの耳にこの音がどう届くのか想像もつかないけれど、幸運にもそういう耳を持ち合わせていないぼくは、もう1曲目から盛り上がりっぱなしだ。

 プロデュースはフェイゲン&ベッカー本人。名パートナーだったゲイリー・カッツの名前はここにはないが、エンジニアリングはご存じロジャー・ニコルスが統括している。かつて偏執狂的にテープを切り張りしながら正確無比なドラム・ループを組み上げたり、実際のミュージシャンに演奏させた各パーツの音をまだまだ扱いにくかったコンピュータ上で“ダンプ”しながらマルチ・テープへと送り込んだり…気の遠くなるような伝説的試行錯誤を繰り広げてきた屈強のサウンド・クリエイト・チームの復活だ。が、コンピュータ技術の飛躍的な発達は彼らの作業をかなり楽にしてくれたはず。たぶん、今の技術をもってすればかつての彼らの音よりもずっとクールで正確なものを作り上げることも容易だったろう。が、むしろ本作でのポイントは、そうした技術を背景に『エイジャ』『ガウチョ』のころよりも余裕を感じさせる躍動的なバンド・グルーヴを現出させていることだ。そんな方向性のアルバムに、しかし“自然に逆らう二人”というタイトルをつけてしまうところも、また一筋縄にはいかない。


You Can't Relive
The Past

Eric Andersen
(Appleseed)

 前作からほぼ1年の間隔でリリースされたニュー・アルバム。

 去年の6〜7月、ミシシッピとニューヨークで録音されたものだ。1曲、ルー・リードとの共作/共演によるアルバム・タイトル・チューンのみ98年の録音。その他、4曲がタウンズ・ヴァン・ザントとの共作。これは86年ごろ、エリックとタウンズと歌手じゃないほうのロバート・パーマーとがよく集まって一緒に飲み歩いていたころ共作してデモ・テープを録った作品だとか。エリック、ルー、タウンズ、ともに60年代のニューヨーク・フォーク・シーンを賑わしたソングライターたち。胸ときめくコラボレーションだ。

 で、タウンズも亡くなり、パーマーも亡くなり、ちょっと前までコラボレートしていたリック・ダンコも亡くなり、本盤で「マグダレナ」という曲を捧げている女性チェリストのアン・シェルドンも亡くなり…。しかし、今も現役で歌い続けているエリックとルーが共作した曲に「You Can't Relive The Past」というタイトルを付けているわけで。かなりぐっとくる1枚だ。

 ニューヨーク録音のものは、60年代から変わらぬエリックならではの繊細な持ち味が楽しめる。ミシシッピ録音のものは、現地のベテラン・ブルーメンとタッグを組んだブルース・セッションだ。ある種ルーツ返りしたような仕上がりなわけだけど、これは“過去を再び生き”ているのではなく、あくまでも今のエリックの現在進行形の姿の表明ってことなのだろう。いいアルバムです。



MP4
(Days Since a Lost Time Accident)
Michael Penn
(Epic/Fifty Seven)

 おいしいタイトルだなぁ(笑)。

 別に新たな音源圧縮フォーマットではなく、マイケル・ペンの4枚目ってことだけど。久々の本作もビートルズ好きの持ち味が怒濤のごとく発揮された仕上がりだ。グラント・リー・バッファローのグラント・フィリップス、マイケルの奥さんでもあるエイミー・マン、兄貴のクリストファーなどもゲスト参加。ほとんどの曲を自らプロデュースして、マイケルさん、がんばってます。キャッチーな曲も多し。

 ただ、唯一、ブレンダン・オブライエンがプロデュースしたアルバムのオープニング・チューンがやっぱりいちばんいい出来かも。そこがこの人の限界?



Telling Stories
Tracy Chapman
(Elektra)

 この人、デビューしたころのインタビューで“自分の音楽以外はゴミみたいなものばかり”的な発言をしていたので、どっちかっつーとこの人が言うところの“ゴミ”みたいな音楽が好きだったりもするぼくはカチンときまして。あまりいい印象を抱いてはいない。

 でも、この人の登場がその後の女性シンガー・ソングライター・シーンを大きく活気づけたことも事実。活動のスタンスとか、歌詞で描く世界とか、この人が変えた部分は大きい。というわけで、ファーストとかセカンドはぼくもよく聞いた。カチンとはきつつも、ね(笑)。その後、3枚目、4枚目…と、アルバムを重ねるごとに、この人に触発されたと思われる後発の女性アーティストたちの活躍にかき消されるような形で、皮肉にも印象が薄れてきてしまっていた感触があるのだけれど。

 が、今回のアルバムはいいかも。わりと好感触。気負いのない、とてもストレートなチャップマンさんがここにいるような気がする。歌声も過去どの作品よりも優しい感じ。二人の関係が崩れてしまったことを歌う曲でも、新しい愛の始まりを告げる曲でも、終始穏やかに表現していく。もちろん、最終的に聞き手の胸に届くのは行き場のない淋しさや孤独感だったりするのだけれど。



A Special Tribute
To Elvis

Swing Cats
(Cleopatra)

 ブライアン・セッツァー以外の元ストレイ・キャッツ2人が結成したスウィング・キャッツのセカンド。ベースのリー・ロッカーがどっか行っちゃったみたいで、もはやストレイ・キャッツ組はドラムのスリム・ジム・ファントムひとりとなってしまったものの、ラモーンズのジョニー・ラモーン、ゴーゴーズのキャシー・バレンタイン、シルヴァーヘッドのマイケル・デブレスなど曲ごとに多彩なゲストを迎えて、われらがヒーロー、エルヴィス・プレスリーのレパートリーをばきばき演奏しまくる。

 こういう連中だから50年代のロカビリー系レパートリーばかりかと思うと、そうでもなくて。「バーニング・ラヴ」とか「好きにならずにいられない」とか「ビバ・ラスベガス」とか「スティームローラー・ブルース」とかまでやっていて。愛が伝わってきますよ。出来は、まあまあ、だけど。



Such A Night
Essential Elvis Volume 6
Elvis Presley
(RCA)

 で、本家のエルヴィス。マニア狂喜の未発表音源集の最新版が出た。今回は60年から64年のナッシュヴィル・セッション編だ。ひとつ前に出た73年メンフィス・セッション編以上に興味深い仕上がり。テイクごとに違う表情を聞かせるエルヴィスの歌声はもちろん、ロイ・オービソンやジョニー・ティロットソン、コニー・フランシス、エヴァリー・ブラザーズなど、当時のナッシュヴィル産のポップ・ソングのバッキングを一手に手がけていたセッション・ミュージシャンたちのごきげんなロックンロール・グルーヴが“素”の状態で楽しめるのがうれしい。バディ・ハーマンのドラムも、ハンク・ガーランドのギターも、まじ、かっこいいです。

 とはいえ、別テイク集だから。もちろん、オリジナル・ヴァージョンを死ぬほど聞きまくった人にこそ価値のある1枚です。



Greatest Hits Volume Three
Best Of
The Brother Years
1970-1986

The Beach Boys
(Capitol/Brother)

 いちおう取り上げておきますね。

 70年以降のブラザー/リプリーズ期、カリブ期の活動をシングル中心に振り返るベスト。アメリカではこれ以前のキャピトル期の代表曲をコンパイルしたベストが2枚出ているので“Vol.3”と題されている。ただ、他の国では前2枚のグレイテスト・ヒッツCDが出ていないので、とりあえずタイトルを変えて、ついでに曲を一部入れ替えてリリースされることになったようだ。現時点での未確認情報としては、「ディズニー・ガールズ」がなくなって、「ティアーズ・イン・ザ・モーニング」「ヒア・カムズ・ザ・ナイト」「スマハマ」が入るとか何とか…。

 まあ、いずれにしても複雑な選曲ではあります。この時期のビーチ・ボーイズの本当の魅力を存分に堪能しようと思うならば、やはりシングル曲だけではなく、オリジナル・アルバムの収録曲にこそ耳を傾けなければならないわけで。いくつかのキー・ポイントとなる非シングル曲は本ベストCDにも収められているものの、やはりCD1枚で総括しきれるものではないだろう。「フォーエヴァー」はどうした、「アワー・スウィート・ラヴ」はどうした、「カドル・アップ」はどうした、「ザ・ナイト・ワズ・ソー・ヤング」はどうした、「レッツ・プット・アワー・ハーツ・トゥゲザー」はどうした、「スウィート・サンデイ・カインダ・ラヴ」はどうした、「マッチポイント・オヴ・アワー・ラヴ」はどうした、「レディ・リンダ」はどうした、「オー・ダーリン」はどうした、「ホエン・ガールズ・ゲット・トゥゲザー」はどうした…と、きりがない疑問にアタマがはちきれそうになりますが(笑)、その辺は今後のオリジナル・アルバム群再発に期待しろってことだね。

 と、そうした事情をおさえたうえで、「スージー・シンシナティ」「カリフォニルア・サガ」「ロックンロール・ミュージック」「イッツOK」という4曲のシングル・ヴァージョンを本盤で楽しみましょう。




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