ぼくは『北野ファンクラブ』が大好きなのだ。もう、毎週金曜日の深夜、この番
組を見るために一週間を過ごしているといっても過言じゃないくらい。で、そんな
『北野ファンクラブ』に登場してくる亀有ブラザーズ。これもたまんないくらい好
きなのだ。
 彼らに対する熱い思いは、1994年の3月、週間文春のテレビのコラムに書かせて
もらった。つーわけで、その文章をまんまここにも掲載しちゃいます。無断だけど、
著者本人がやってることだから。半分くらいは許されるような気がします(笑)。怒
られたら引っ込めます。では、どーぞっ。


 近ごろは“地上波”、つまり普通のメジャーなテレビ局の番組を見る機会がめっ
きり減った。なんだかできあがっちゃってる感じ。ニュースもやたらショーアップ
されてるし、バラエティも無駄にゴージャスだし。昔はチープなえぐさが魅力だっ
たお昼のワイド・ショーまで最近はずいぶんと偉そうだぞ。音楽番組に至っては最
低だ。歌そのものよりもトークとかゲームしている時間のほうが長いんじゃないの
? 面白くない。
 先日オンエアされた特番『ザ・ベストテン同窓会』を眺めていたら、過去の名場
面集があって。CCBが気球に乗せられて歌ったり、荻野目洋子が前衛舞踏と共演
してたり、八神純子が出港する船上、しかも雨の中でピアノを弾いたり……。ああ、
こうやって音楽番組は地上波から姿を消していったのか、と思わず遠い目になった。
これじゃ音楽ファンが見なくなって当然。音楽がまともに扱われていないんだもん。
トーク番組やバラエティを好きな人は見るかもしれないけどさ。
 そんなこんなで地上波にすっかり飽きてしまったぼくはもっぱらケーブルTVと
ともに暮らしている。我が家があるマンションは某ケーブル・ネットワークに加入
しており、おかげでBS衛星放送も、CS系ニュース専門局も、海外ドラマ再放送
局も、スポーツ局も、映画専門局も、音楽専門局も見られる。だもんで、トレンド
作りの仕掛けばかり気にしてる地上波のドラマには目もくれず再放送チャンネルの
『刑事コジャック』や『サンダーバード』を見たり、相変わらず野球とサッカーの
対立構図でのみ視聴率合戦を繰り広げる地上波のスポーツ番組を無視してNBAや
NFLにも目配りした衛星放送に走ったり。音楽番組もほとんどCS衛星系のスペ
ースシャワーとMTVジャパンですませている。確かにどちらもチープ。ツクリは
安い。発展途上段階。小さなスタジオで少ないスタッフと少ない器材で収録されて
いることが見え見え。が、それがまたなんともいい。いいかげんなツクリの中に見
え隠れするエネルギーが楽しいのだ。新しい文化ってやつは常にメディアのはきだ
めのようなところで芽をふく。地上波がすっかり丸の内とか永田町の街路みたいに
なってしまったのに対し、衛星局やケーブル局はニューヨークのブロンクスやシカ
ゴのサウスサイドっぽい手触り。まさにメディアのはきだめ。だから面白い。
 ただし。長い前置きを経てここからが本題ですが。地上波でもほんの一握りの深
夜番組には、ゲリラ的でお下劣でチープなはきだめ感覚がいまだ厳然と生き残って
いる。たとえば『北野ファンクラブ』。ぼくはこの番組が大好きだ。番組の大半は
ビートたけしと高田文夫のあてどなきトークの垂れ流し。事前の仕込みもなくいき
なりカメラを回し始めるらしく、まあ、空振りも多い。けど、当たればでかい。こ
のブライアントみたいな、テキトーな持ち味がたまらなく好きだ。テレビってのは
こうあってもらいたいと心底思う。
 それに、亀有ブラザース。なんたってこれがいい。ごきげん。ビートたけしと、
ガダルカナルタカ、つまみ枝豆の三人がフロントに立ち、グレート義太夫がギター、
助っ人キーボードが一人、コーラス&ダンスのおねーちゃんが二人、という編成の
バンドで毎週様々な曲に挑戦する替え歌コーナー。彼らは(たぶん)限りない愛情
と憧れとをもって、サザンオールスターズだ、米米クラブだ、ピーター・ポール&
マリーだ、マヒナスターズだ、と雑多な音楽に勇躍挑みかかっていく。が、時には
くっだらなさの極致とも言うべき下ネタ満載の歌詞によって、あるいは音楽的表現
力のどうしようもない稚拙さによって、そのすべてのフォーマットを結果的に粉々
に打ち砕いてしまう。既成の価値観を粉砕して突き抜ける無垢な破壊力ときたら。
セックス・ピストルズも顔負け。こんなパンクなやつらはいない。なぜ亀有ブラザ
ースはCDを出さないんだろう。ぼくもこれまで新人/ベテラン含めていろんなア
ーティストのプロデュースを手掛けてきたけれど。今いちばんプロデュースしたい
バンドが亀有ブラザースだ。地上波局に残された最後の偉大なるはきだめです、こ
の番組。



(c)1996 Kenta Hagiwara
kenta@st.rim.or.jp