John Lennon Rock 'N' Roll
(Remixed & Remastered Edition)

John Lennon
(Apple/Parlophone)
2004.10.11

 反響がありましたよ。イチローのこともそうだけど(笑)。オレ流『SMiLE』のこと。

 まあ、イチローについてもずいぶんすごいことになった。ぼくは以前から発言しているように、とにかく自分がどういう素性の者であるかを明かさない匿名状態での論議に何ひとつ魅力を感じないこともあって、数年前から2ちゃんねるってものを一切見ないように自ら律しているもので。そっち方面での事態はノーマークなのだけれど。アクセスログなどをチェックしてみると、ずいぶんとたくさんの人が2ちゃんねるから来ているようなので、かなり叩かれているのでしょう。その傾向は続々届いた抗議メールのようなものからも推測はできる。

 ずいぶん来ましたよ。内容を引用することすらはばかられるような、差別意識まるだしの罵倒メールとか。脅迫まがいのメールとか。自らをイチローと同化してしまったかのようなメールとか。全部に返信はしていないものの、あまりにも誤解がひどいなと思ったものに対しては最初のうち返信させてもらったのですが、ものの見事にすべてリターンド・メールとして戻ってきてしまうという(笑)。アドレスまで詐称して文句を送りつけてきても、これじゃ2ちゃんねると変わらないじゃん、と思いつつ、その後はもう返信をやめちゃいました。

 すべてのイチロー・ファンではなく、一部の人だとは思うけれど。イチローにちょっとでも文句をつけるやつは許さん、みたいな風潮があるのだとしたら、それはどうなんだろう。ちなみに、抗議メールを送ってきた方の中には、ぼくが何者であるかは知らないという方も多くて。当然です。野球界と音楽界じゃ規模が違うし。でも、そんな畑違いの人間、つまり野球に関してはシロートであるぼくが、自分の趣味でやってるホームページで、しかも、本題ではなく単なる前フリとして「俺はイチローが嫌いだ」と発言したからといって、そんな激しく、素早く反論してくださらなくても…と思う。まじに。ニュースとしての価値はないでしょ。ぼくごときがイチローのプレイ・スタイルやプレスに対する受け答えが嫌いだからといって、彼の記録にケチがつくわけじゃないし。もちろん、もし抗議の基本が“シロートがイチローをけなすな”ということなのだとしたら、それはおかしいので断固ぼくも対抗しますが。

 確かに、ぼくの発言には正確さに欠ける部分があったのは事実。特に“ここ数年のマリナーズ”という表現かな。これは“今年のマリナーズ”とすべきでした。マリナーズ・ファンの方、申し訳ありませんでした。時間がたつにつれて、反論メールを送ってくださった方の論拠はその一点に集約されていく傾向があった。でも、イチローが入った年に地区1位で。そのあと、3位、2位。で、今年が最下位。やっぱり、最初だけよかったな、という印象が強いのですよ、ぼくには。

 オリックスに関しても、94年にイチローが初めて200本安打して、2位。翌年1位。さらに翌年、日本一。で、ここから2位、3位、3位、4位ときてメジャー移籍、と。

 で、このオリックスのデータも、実はぼくの個人的な実感とそんなに違っていなくて。なんか、イチローが神がかった活躍をするようになるにつれて、どんどん弱くなっていったなぁ…というぼくの印象は間違っていなかったとむしろ再確認してしまったというか。イチローがメジャー移籍した年、まだグリーンスタジアム神戸って名前だった現ヤフーBBスタジアムでの初戦を見に行ったとき、なんだかチームが、ほんと、抜け殻みたいになっちゃったことを実感したものだ。地元でのシーズン初戦だというのに客席もがらがら。プレイにも、応援にも、なんか外に向かう熱が感じられないというか。実際の気温も低かったのだけれど、とにかく寒い、と。先日のオリックスに関する発言は、こうした個人的体験からくる個人的なものだと思ってください。いつの間にかイチローだけに寄りかかったチームになっていたという事実を、イチローが抜けたことによって誰もが…いやいや、いかん。そんなこと書くと、「そんなのお前だけだ、この●●が」とか、また公にはできないようなメールが届くといけないので、少なくともぼくが、と言い直させてもらいますが。とにかく、少なくともぼくがそう思い知った瞬間だった。その辺が今年のマリナーズとダブって見える、と。

 まあ、そんなようなことです。あと、お前のホームページの文章は文筆を生業にしている人間とは思えない…とかいうメールもあって(笑)。それはその通り。前述したように、ここはぼくが自分で金を出して勝手にやってる趣味のページですから。備忘録というか、思いつきをとりあえず記録するメモというか、日記というか、基本的にはそういう性格のものとして95年から殴り書きを続けているわけで。おー、もうすぐ10周年か。ぼくがお金をいただいて書いている文章とは、内容はともあれ、少なくとも文体とか、吟味の度合とかはまるで違います。それだけに誤解が生じたり、間違いを書いちゃったり。その辺の乱暴さに関してはお詫びしますが。たぶんこのままでいきますので。テキトーに読み流してください。お金をいただいて書いている文章も読んでくださったうえでのダメ出しは真摯に受け止めますが(笑)。

 ああ、ずいぶんと長くなってしまった。書きたいことは『SMiLE』のほうです。オレ流『SMiLE』。ぼくが自分で昔の未発表音源を使った『SMiLE』を編集して楽しんでいるということを書いたら、自分もやってます…という報告メールを多数いただいた。海外のマニアが作ったものもネットのあちこちにアップロードされていて。その所在を教えてくださった人もいた。いいね。マニアの気持ちはひとつだね(笑)。なにやらブート業者も同趣向の盤を作成中らしく。相変わらず、こういうマニアの情熱を商魂へとすりかえちゃう連中もいるわけですが。

 何人かの方はオレ流『SMiLE』の音源を送ってくださったりもした。多くの場合、今回のブライアンによる2004年版『SMiLE』の構成を、過去、CDのボーナストラックとか、ボックスセットとか、ブートとかで世に出たボツ音源を使って再構築していて。結局同じ音源を使った作業なので、まったく同じようになるはずなのに、作成者それぞれの個性とか、思い入れとか、音楽観とか、センスとかが随所に発揮されていて。けっこう違う仕上がりになってたりする。なんだか面白い。みなさん、ありがとうございました。

 で、話は変わるようで、変わらないのだけれど。先日、ジョン・レノンの『ロックンロール』のリミックス&リマスター盤が出て。大好きなアルバムなのに、いや、大好きなアルバムなだけに、と言ったほうがいいか。ちょっと複雑な気分になった。ジョン・レノンのリミックス盤とかビートルズのリミックス盤とかって、ずいぶんとオリジナル・ミックスから離れてしまうことが多くて、ぼくは個人的にあまり好きになれない。というのも、たとえ不本意だったにせよ、オリジナル・ミックスというのはその時期にそのアーティストが、とりあえずこれでOKという気持ちで世に出したもので。その時点で、アーティストの手すら離れて盤そのものとしてオリジナルな存在感を主張し始める。これはね、かなり絶対的なものだと思う。で、その音像をもとにして、聞き手がそれぞれの頭の中でそれぞれの世界観を構築していく、と。音楽好きにはよくあることだと思うけれど、ある曲のギターの印象的なフレーズとか、コーラスのフレーズとか、ドラムのフィルとか、大きくミックスされているとイメージしていたのに、実際に盤を聞き直してみたら、実はけっこう小さかったり。逆に、改めて盤を聞いたら、こんなにヴォーカルでかかったっけ? みたいな。

 これがいいんだよなぁ。これがまた音楽の醍醐味。本人が何らかの意図でミックスを新たにする場合はまた違った評価になるのだろうけど。ジョン・レノンとかジミ・ヘンドリクスとかエルヴィス・プレスリーとかのような故人の既発音源をリミックスするとなると、そのリミックス・エンジニアがよほどそのアーティストなり、あるいは制作を司っていたプロデューサーなりのことを知り抜いているか、当時の事情を勉強しているかでない限り、いい結果に終わることはありえない。本人が関わったリミックスでさえ、オリジナルを超えることはほとんどないというのが、その種のものを多数聞き続けてきて得たぼくの実感だ。今回の場合、オノ・ヨーコ監修だからいいじゃないかという意見もあるようだけれど、『ロックンロール』はソロになってからのジョンが、唯一、ヨーコと別れた状態の時期に作られたものだし。

 リミックス・エンジニアも、あるいはアーティスト本人さえも、オリジナル盤が出たあとはぼくたち聞き手と同じ立場になってしまうのだ。彼らもまたオリジナル・ミックスに接しながら、それぞれの頭の中でそれぞれの世界観を構築していて。リミックス作業ではその世界観をもとに、よりデフォルメかける形で音像が仕上がってしまう、と。まあ、それもそれで面白いのは確か。だからこそ、オレ流『SMiLE』ですら作成者それぞれの個性が出るのだろうし。

 でも、だからこそ、ぼくはオリジナル・ミックスも破棄せず、ちゃんと世に出したままにしておいてほしいと願う。オリジナル・ミックスがあったうえでのリミックスであればそれなりに楽しめるのだから。なので、リミックスより前に、まずはオリジナル・ミックスを最良のリマスターで出すという作業こそを進めてほしかった。ビートルズの音源とか、一部は結局オリジナルUKアナログ・ミックスも、当時のUSミックスも、まったく市場にない状態が続いている。これは不幸だ。当時の作業に満足な時間がかけられなかったというジョージ・マーティンの主張によるものだと聞いているけれど。ミックスも音楽を作り上げるうえで重要な要素であるからこそ、不満足なものといえども、オリジナル・ミックスはそのまま世に残しておいてほしい。ミックスも含めてオリジナル音源。ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』にしたって、後年、ステレオ版が出たときはその豊かな広がりに驚喜したものだけれど、長いこと聞き続けてきたら、やっぱりオリジナル・モノ・ミックスのほうが断然心に響くことがわかったし。その辺、やっぱりこだわってほしいものです。今度出るというビートルズのUS仕様盤の再発のミックスって、どうなってるんだろう…。

 というわけで、今回は珍しくあまりおすすめでないピック・アルバムです。冒頭、カウント入りの「ビー・パップ・ア・ルーラ」からして、いきなりオリジナル版のむちゃくちゃ扇情的なオープニングに水を差しちゃった感じもするし。分離がきわめて悪かったオリジナル版のおだんごミックスが放つワイルドかつ凶悪な手触りには、やっぱりかなわない。リミックスされていないボーナス・トラック、特に「エンジェル・ベイビー」はいいもんなー。胸にくる。とりあえず本編のほうもリマスターだけで出してほしかった。けど、『ロックンロール』に関しては、本格的なデジタル・リマスターは施されていないとはいえ、今のところオリジナル・ミックスのCDも出たままなので、違いを楽しむという方向性でおすすめしましょう。もちろん、国内盤およびEU盤などはCCCDなので、よい子は買わないように。ちょっと高いけど、通常CDのUK盤でお願いします。US盤も、もちろん通常CDで11月上旬にリリースされる。アマゾンしましょう。

 物理的に音質が悪いと、もうそれだけで聞く気にならないから、今回のリミックス&リマスター盤のほうがいいという意見も耳にはするし、それはそれでひとつの聞き方かなとは思うけれど。音質が悪いと聞く気にならないというのは、聞き手としての重要なクリエイティヴィティを自ら放棄しているようなものだと思う。そういう人は一生、ロバート・ジョンソンの凄まじいファンキーさも、ジミー・ロジャースのとてつもない切なさも、チャーリー・パーカーのスリリングさも、トスカニーニのスピード感も、音質が悪いというだけで実感できずに過ごすんだろうか。それはもったいないぞー。人間には想像力ってものがあるんだから。それを存分に活用しなくちゃ、ね。

 ところで、実はこの文章、ホームページのトップにいる期間が短いかも。なにせ、ブライアン・ウィルソンのニューヨーク公演が明日、あさってに迫っているもんで。また自腹で来ちゃいましたよ、ニューヨーク。絶好調のブライアン・ウィルソン・バンドだけに、今年の2月にロンドンで見たときよりもかなりグレードアップしてるんだろうな。今回の『SMiLE』ツアーに参加しているホーン・セクションのメンバーの話によると、『SMiLE』のスタジオ盤を録音したあと、さらにアレンジが充実した方向に変更されているとのことだし。ライヴを見て、またまた感動を新たにしたらあっという間に更新でしょう。うー、楽しみだなぁ。




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