祝! 来日!
つーことで。バート・バカラック。来ますね。今いちプロモーションが行き届いていないせいか、彼の来日を知らない人もいるようですが。来ます。11月25日と26日、東京国際フォーラムで久々の来日公演。バカラック自身の指揮・ピアノを含め、10人編成のバンドとのことだけれど、アメリカでリハーサルの模様を見てきた人の話によると、生と変わらぬストリングスのサンプリング音源によって、見事、往年のバラカック・サウンドがよみがえっているらしい。
わくわくしちゃうねー。
なんとオースティン・パワーズのTシャツにジーンズ、エアマックス姿で演奏を開始したバカラックさんは、メドレーも含め、実に42曲を聞かせてくれたのだとか。もちろん代表曲総ざらい。こりゃ、間違いなく今世紀最後のビッグ・チャンスだ。
バカラックって人は、とても流麗で、豊潤なメロディをつむぎだすプロ中のプロのソングライターなわけで。いわばイージー・リスニング・シーンの王様みたいな存在ではある。けど、ちょっとでも作曲やら楽器演奏をかじったことがある人にならわかる通り、あの人、とんでもないコード進行を使うんだよなぁ。メロディも一筋縄にいかない。アレンジもとてつもなく緻密で、プログレッシヴで、ある種アヴァンギャルドでさえある。
安穏とロックもどき音楽を演奏するそこらの自称ロック・ミュージシャンどもなんかより、全然パンクでロックンロール。バカラックには誰もが脱帽するしかない。
彼の全盛期は、作詞家のハル・デヴィッドと組んで、ジーン・ピットニーやディオンヌ・ワーウィック、ダスティ・スプリングフィールド、B・J・トーマスといった連中に次々と珠玉のヒット・メロディをプレゼントしていた60年代後半だろう。それは誰もの一致した見解だと思う。でも、今だってすごい。バカラックは、いまだにとてもアクティヴな存在だ。日本のバート・バカラック研究の第一人者、 ash&d の坂口修さんがまとめてくれた“最近のバカラック周辺事情”をざっとご紹介しておくと――。
- バカラック 久々の新曲「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」(60'sポップスの総本山ブリル・ビルディングを題材にした映画『グレース・オブ・マイ・ハート』の主題歌でエルヴィス・コステロとの共作)がグラミー賞にノミネートされる。また、デヴィッド・レターメンのTV番組『レイト・ショー』にコステロと揃って出演しこの曲をライヴで披露。その模様を収録した『Live on Letterman: Music from the Late Show』が11月末リプリーズ・レコードからリリースされることになった(日本発売も決定)。意気投合中の2人はすでに新作を7曲も共作していて、発表の準備を進めている。
- 5月に全米で公開され大ヒットしたマイク・マイヤーズ(『ウェインズ・ワールド』のウェインを演じていた、あいつ)が主演した映画『オースティン・パワーズ』は、バカラックが音楽を担当した007のパロディー映画『カジノ・ロワイヤル』(67年)へのオマージュ的作品。劇中「ザ・ルック・オブ・ラヴ」が効果的に使われ、「ホワット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ・イズ・ラヴ」の弾き語りでバカラック本人も登場。アメリカでのバカラック再評価のきっかけとなった。日本では来夏に公開予定。
- 全米で5月にオンエアされたバカラックのドキュメンタリー番組『ジス・イズ・ナウ』は、96年1月1日に英国BBCで放映されたもの。ナレーションをダスティ・スプリングフィールドが担当し貴重な映像とインタビューで構成、オープニングにはピチカート・ファイブの「ツイギー・ツイギー」のプロモーション・ビデオも使われた。バカラック・ブームはアメリカよりイギリスの方が一足早く、デビュー・アルバムのジャケットにバカラックのポスターを起用したオアシスのヴォーカリスト、ノエル・ギャラガーも登場し、「ジス・ガイ」を激賞。放映後、彼はバカラックのイギリス公演(96年)にゲスト出演してその名曲を熱唱した。
- ジュリア・ロバーツ主演映画『ベスト・フレンド・ウエディング』はバカラックの楽曲を5曲使用。主題歌にダイアナ・キングの歌う「アイ・セイ・ア・リトル・プレイヤー」が使われ、そのサウンドトラック盤CDは全米で大ヒットする。他に映画で、ベット・ミドラー、ゴールディー・ホーン、ダイアン・キートン主演の『ファースト・ワイフ・クラブ』のテーマ曲にディオンヌ・ワーウィックが歌う「ワイヴズ・アンド・ラヴァーズ」、さらに『素晴らしき日』では挿入曲としてハリー・コニック・ジュニアのカヴァーした「ジス・ガイ」が使用された。
- バカラックが音楽を担当したブロードウエイ・ミュージカル『プロミセズ・プロミセズ』が30年ぶりにUCLAのスタッフによりアメリカ数カ所で再演され、アンコール公演が行われるほど人気を博す。
- 6月、「ユダヤ人の音楽」という解釈でジョン・ゾーンがバカラック・トリビュート・アルバム『Great Jewish Music: Burt Bacharach』(Tzadik Records)を制作、続いて同じ企画のセルジュ・ゲンズブールへのトリビュートCDも作られた。
- 6月、ジャズ・ピアノ・プレイヤー、マッコイ・タイナーがバカラック作品集『What the World Needs Now: The Music of Burt Bacharach』をインパルス・レコードからリリース。プロデュースはトミー・リピューマが担当し、米ダウンビート誌で4つ星の評価を取る。ジャケットにはバカラック本人によるコメントが載っていて、日本盤も発売された。
- 8月、バカラック初のミュージカル映画『失われた地平線』(72年公開)のオリジナル・サウンドトラック盤CDが米Razor & Tieから再発。
- 9月、ウェスト・コースト・ジャズの名門レーベル、ブルー・ノートアーチストによるバカラック作品のカヴァー曲を集めたコンピレーション盤CD『BLUE BACHARACH / A Cooler Shaker』が発売された。
- 今のアーチスト達によるラウンジ・ミュージックのトリビュートCD『ラウンジ・ア・パルーザ』(Hollywood)でファストボールが「ジス・ガイ」をカヴァー。このアルバムには、ベン・フォールズ・ファイブやエドウィン・コリンズらが参加し、ピチカート・ファイブは「イパネマの娘」をカヴァーした。9月25日に日本先行発売。
- 10月、バカラックのオリジナル・ファースト・アルバム『バート・バカラック・プレイズ・ヒズ・ヒッツ』(65年 Kapp、上の写真) が米UNI/MCAより再発。これは、映画『オースティン・パワーズ』の劇中でこのLPが使用されたためだと思われる。しかし、すでに日本では5月、イギリスでは7月に再発されていた。さらに我が国のみ66年のリック・ネルソン&ジョニー・ソマーズ主演TVミュージカル『オン・ザ・フリップ・サイド』のオリジナル・キャスト・アルバムとMCA音源を使用した『POP編』『HIP編』2種類のコンピレーションCDも同時発売されて話題を呼ぶ。また、ワーナー・ミュージック・グループの音源で作られたコンピレーション・アルバムも『Sweet編』と『Mellow編』の2種類が出て、今年はまさにバカラックCDのリリース・ラッシュとなった。
- ナッシュヴィルのポップ・デュオ・グループ、スワン・ダイヴがミニ・アルバム『ウィンターグリーン』(10月22日、ソニー/トライスター・レーベルより日本盤のみ発売)で「イン・ザ・ランド・オブ・メイク・ビリーヴ」をカヴァー。オリジナルはドゥワップ・グループのザ・ドリフターズだが、スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンが最近出した自伝本の中でディオンヌ・ワーウィックのヴァージョンを愛聴盤として取り上げていた。しかし、スワン・ダイヴがお手本としたのは、69年唯一ヒット・チャートに顔を出したダスティ・スプリングフィールドのメンフィス録音ヴァージョンとのこと。
- 11月発売のカルチャー・マガジン『SWITCH』ではバカラックを30ページ以上に渡り特集する予定。バカラックとのインタビュアーは先のスワン・ダイヴのメンバー、ビル・ディメインが担当。彼は、音楽ジャーナリストとしても活躍し、昨年イギリスの音楽雑誌『Mojo』でバカラックを特集して注目された。
- バカラックの来日公演を記念して11月24日にポリドールから71年の『ライヴ・イン・ジャパン』の世界初CD化が決定。これはバカラック唯一のライヴ・アルバムで、当時日本とイギリスのA&Mレーベルでのみリリースされた貴重な作品。また一緒に、ボリグラム・グループの音源を使ったコンピレーションCD『ポリドール・バカラック・ソングブック』も発売される。
- 98年には、ブロードウエイ・ミュージカルの新作やライノ・レコードによる3枚組のバカラック・アンソロジーCDのリリース等が予定されている。
と、まあ、すごいことすごいこと。今まさに何度目かの“旬”を迎えているバート・バカラックを生で味わうことができる11月の来日公演。これを見逃すテはないでしょう。
その他、インターネット上でのバカラック情報をいくつか下にあげておきます――。
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