無資格で灸・患部コロコロ…接骨・整骨院、やまぬ不正


ビワ灸を保険請求していた
接骨院の看板=北九州市
 接骨院や整骨院で治療する柔道整復師による不正な健康保険請求が後を絶たない。ビワの葉を使ったお灸(きゅう)、アルバイトを使ったマッサージ、治療日数の水増し……。手口はさまざまだ。毎年5千人もの柔整師が誕生し、生き残り競争が激化する中で、疑惑の請求も急増。最近の調査だと、3カ所以上のけがをしている患者が半数を超える異常事態に。こうした不自然な請求をやめさせる手だてが急務だが、行政の怠慢もあって有効策は打ち出せていない。

 ■柔整師がお灸?

 「ビワの葉の上からお灸をするとよくなりますよ」

 多くの患者にそういって、ビワ灸を勧め、不正請求を繰り返していた北九州市の柔整師(58)が3月、福岡社会保険事務局の指導を受けた。

 お灸治療の保険請求は、国家資格を持つ、きゅう師でも医師の同意が必要で、柔整師には一切認められていない。

 発覚のきっかけは、ビワ灸を受けた60代女性の告発だった。市への情報公開請求で自分の治療内容を調べると、肩や腰のねんざなど身に覚えがないけがが載っていた。

 社保事務局が調査に入り、ビワ灸による不正請求がわかった。灸では保険請求できないのでうそを書いたのだ。「振り替え請求」という手口だ。柔整師は朝日新聞の取材に「灸で健康保険から得た治療費は年100万円ほど。近く返還する」と非を認めた。

 ■動き回る患部

 手首からひじ、肩から腰などと、患部が次から次へ変わる「部位転がし」。長期にわたる治療の時にしばしば用いられる不正請求の手口だ。

 ある中学生が4年にわたって治療を受けた東京の接骨院の請求はこうだ。07年5月、右肩など3カ所の治療が行われ、6月には首の治療も加わった。7月に肩の治療が終わったが、代わりに左下腿(かたい)の肉離れが加わり、その後もけがの部位はめまぐるしく動き続けた。

 請求を受けた健康保険組合は典型的な部位転がしとみて昨秋、柔整師への支給を打ち切った。


 

■日数水増し

 「通院12日2万1597円」「通院13日2万470円」。大阪府の女性(45)は昨秋、藤井寺市の両親に届いた4月分の医療費通知をみて目を疑った。父母とも4日間しか通っていないはずだ。同じ接骨院に通う夫の通知も数カ月分、調べた。やはり通院日が3〜10日多かった。

 市に相談しても動かないため、自ら接骨院に詰め寄ると「入力ミス。調べる」と言ったきり、何の連絡もない。

 女性は内科の診療所に勤め、保険請求事務に詳しい。「病院や診療所の保険請求では、通院日の水増しなんて考えられない」と憤る。

 ■行政の怠慢

 行政が手ぬるいため不正がはびこるとの指摘が多い。

 神奈川県秦野市の接骨院は大学生ら無資格のアルバイトに肩こりや筋肉痛をほぐすマッサージをさせていた。これを知った近くの柔整師は05年、神奈川社会保険事務局に連絡し是正を求めた。だが、実際に指導があったのは07年度。この間にも複数の健康保険組合から指摘があり、ようやく重い腰を上げたのだ。

 この接骨院は今も新店ができるほど繁盛している。「系列店は今もアルバイトを使っている。行政は即刻、保険請求中止にすべきだが、相変わらず手ぬるい」と通報した柔整師の不満は募るばかりだ。

 行政の怠慢もあって柔整師の不正が発覚することは少ない。柔整師のうそを見破るには、患者一人ひとりに確かめなければならないからだ。

 6月、政府の経済財政諮問会議で医療費抑制のため、柔整師の請求適正化が議論されたが具体策は出ていない。(冨名腰隆、内藤尚志、松浦新)

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 〈柔道整復師〉 骨折、脱臼、ねんざ、打撲、肉離れの治療を行う。この五つのけがについては健康保険請求が可能。06年末現在約3万8700人だが、養成学校の急増で国家試験合格者は年5千人のペースで増えている。