マッサージ:無資格が横行視覚障害者の職場奪う

 無資格マッサージの増加で視覚障害者の働く場が奪われているとして、日本盲人会連合(笹川吉彦会長、約5万人)など4団体が、厚生労働省に対して行政指導や取り締まりの強化を求めて陳情するなど、職場を守る運動を強めている。視覚障害者の就業率の低下が激しいとして、厚労省も雇用支援に乗り出した。

 全盲の大楽(だいらく)スミヨさん(59)は96年から福島県の温泉街の観光ホテルに呼ばれて出張マッサージをしていた。1時間4000円の料金のうち、400円は「呼んでくれたお礼」としてホテルに置いてきた。

 ところが、01〜02年ごろから、複数のホテルに無資格業者が参入してきた。「相手は若い健康な女性で、私はズボンともも引き姿」。呼ばれる回数は減り月収わずか1万数千円になった。「呼んでもらえなくなると思い、ホテルに文句が言えなかった」。05年秋には全く声がかからなくなったため、ハローワークに通い、今は東京都内の会社で従業員向けのマッサージの職を得た。

 東京都杉並区でマッサージとはりの診療所を開いて36年になる全盲の菅井孝雄さん(59)。開業した翌72年は1287人の肩や腰をもみほぐした。患者数は順調に伸び、年に3万〜7万円ながら所得税も納めた。「当時は30代、40代の若い患者さんが多かった」

 しかし、97年に患者数が開業以来初めて1000人を割ると、07年には618人にまで減った。腕が落ちた覚えはない。「駅前の入りやすい無資格店などに患者さんが流れたのかもしれない」と思う。視力障害のある妻(57)は5〜6年前から養護施設にマッサージのアルバイトに通うようになった。2人で月額約16万円の障害基礎年金が頼りだ。【石丸整】

 ◇「足裏」など増加で就業者は減少傾向

 厚労省によると、視覚障害者の推計就業者数は年々減少し、91年の9万6000人が06年には6万6000人と過去最低になった。約6割はマッサージなどで生計を立てており、減少の原因が、ここ数年街角で見かける「クイック」「足裏」などの資格のない店の増加とされる。

 厚労省医事課によると、マッサージを施すには「マッサージ師」の国家資格が必要だが、「クイック」や「足裏」などの看板を掲げている場合は、無資格で営業しても「判例上、健康を害するものでない限り、摘発はできない」という。

 もちろん、資格を持つ店や、障害がなくてもマッサージ資格を取得する人も多い。現在、有資格者の4人に3人が健常者だ。

 視覚障害者の仕事が圧迫される事態に、厚労省は昨年4月、視覚障害者雇用を支援するよう求める通達を全国のハローワークに向けて初めて出した。日本盲人会連合の笹川会長は「視覚障害者の働く場は少なく、マッサージなどで生計を立てられないと行き場がなくなる」と話している。

毎日新聞 2008年4月16日 15時00分