検証  いわゆる“最高裁判決(昭和35年1月27日)”とは 

          (参考)主文は、こちら 

無資格者・医業類似行為の問題は長年にわたって未解決のまま今日に至っています。その原因のひとつに最高裁の判決の影響が牢乎(ろうこ)としてわだかまって います。それ以後、医業類似行為も著しい変容をもたらしながら街中にあふれかえっています。これは、不当な判決であったのか、行政が取り締まりを怠っているのか、それとも業界が何もせずに放置してきた結果なのか。 あん摩・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師に関する法律第2l7号において身分が定められている私たちにとって、釈然としないものを多くの方が抱いておられるのではないでしょうか。

 この、「最高裁判決」とはいったい何だったのか、疑問をお持ちの方も多いと思いますので、もう一度再検討してみたいと思います。

 

 差し戻しは最高裁のテクニック(判決の隠れた本当の理由)

 法曹界の考えのひとつに、憲法の安定性という考え方があります。

 そして法律は、一般論と抽象的で成り 立っていて、具体的・個別的なことをはじめから避けて作られています。その 理由は長くなるので省略しますが、刑法上は「怪しくは罰せず」の原則ですか ら、裁判に負けそうな場合、具体的に一つ一つきめ細かく決められていない憲 法を持ち出すことはいわば常套手段(一種の技法)で、よくあることです。

 これを一つ一つ憲法論議にしていたのでは、最高裁の本来の役目は果たすことは出来ません。法律で解決できることは、法律で解決しなさいという主旨で 差し戻されたと考えられます。また、独立性の最高裁といわれるように、11名の裁判官が一人一人意見を述べ、最後は多数決で決定されることになっています。法律の専門家でないかぎり、論旨を読んでも理解しにくく、誤解されやすい原因にもなっているのでしょう。このことをいいことに、無資格業者は今日まで、最高裁という袞竜(こんりょう)の袖に隠れて、本来の主旨とは違う解釈でもって大衆を瞞着(まんちゃく)してきました。

 我われ有資格者にとっても、正しく認識しておく必要がありますので、もう 一度確認する意味で、被告人の上告論旨を除いた判例を抜粋して掲載してみる ことにします。

 

 主文「原判決を破棄する。本件を仙台高等裁判所に差し戻す」

 以下、本文。

 「憲法第22条は、何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有することを保障している。されば、あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法第12条が何人も同法第1条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならないと規定し、同条に違反した者を同第14条が処罰するのは、これらの医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するものと認めたが故にほかならない。ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虜があるからである。それ故前記法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす(おそれ)のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないのであって、このような禁止処罰は公共の福祉上必要であるから前記法律第12条、14条は憲法第22条に反するものではない。」

 すなわち、憲法第22条「職業選択の自由」は、「公共の福祉に反しない限りにおいて」認められているもので、法律第217号第12条で医業類似行為が禁止されているのは、公共の福祉に反するからであると述べられています。 

 従って、あん摩・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師に関する法律第217号第12条は合憲であり、憲法第22条にも合致したものである。よって、人の健康に害をおよぼすおそれのある行為は禁止処罰対象となるのであります。

 

 次は、仙台高裁に差し戻した後の判決を検証してみたいと思います。

 

      参考文献:別冊ジュリスト 154,155,156,157ページ

            判例時報 345号 176,177,178,179ページ

【川村雅章】

最高裁(昭和35年1月27日)による差し戻し後の控訴審判決

 

 あん摩師・はり師・きゅう師に関する法律第217号12条「医業類似行為の禁止」は合憲であり、憲法22条(職業選択の自由)にも合致したものであり、人の健康に害をおよばすおそれのある行為は禁止処罰対象となると述べました。

 決してあん摩師・はり師・きゅう師に関する法律第217号が違憲であったのでもなく、被告人が無罰になったのではなかったのです。

 

人の健康に害をおよぼすおそれのある行為かどうかについて判断を示していないということで仙台高裁へ差し戻しされたものだったのです。

差し戻し後の第二審、仙台高裁昭和38年7月22日判決

主文 本件控訴を棄却する。

差し戻し前の第二審ならびに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

差し戻し後の判決は、鑑定の結果、HS式高周波器を使用して行った施術行為は人の健康に害をおよばすおそれがあるとして有罪を下しました。

 

 争点となった人の健康に害をおよばすおそれがあるかどうかについて行なわれた鑑定は、鑑定人それぞれが出した結果が対立し困窮した様子がうかがえます。以下、抜粋します。

 鑑定人 宮地韶太郎氏(東北大学医学部放射線医学教室教授:差し戻し前第三審の鑑定人)は、高周波電波の一種と解し微量の温熱が発生し、投射時間が20分ないし 30分の短時間である場合には健常の人体に対してほとんど影響を与えない。

 鑑定人 大島良雄氏(東京大学医学部内科物理療法学教室教授)は、この療法は過度の長時間の使用は疲労をきたして不適当であるとし、応用の部位ならびに電流の強さに注意しないと病的状態においてはショックを誘発する危険があるとし、両手間とか胸部の通電の場合は心室細動ないし心柏停止の危険、また脳の通電の場合には呼吸循環系に対する危険が推定されるとした。

 鑑定人 伊藤科次氏(早稲田大学理工学部助教授)は、HS式高周波器はその構造上低周波電流が完全に阻止されているし、温度と昇も極めて微弱で、人体に害があるとは考えられないとした。

 

そこで仙台高裁はさらに東北大学医学部放射線医学教室教授古賀良彦氏に鑑定を命じたのであります。

古賀鑑定人は、被検者として東北大学医学部放射線医学教室の医師7名と技師1名を選定して実験を重ねた結果、HS波は高周波ではあるがその波高の不規則性から変調効果を来たして、刺激作用を起こすにいたることを明らかにし、使い方によっては人の健康に害をおよばす危険性を保有していると結んでいる。

 人の健康に害をおよぼすおそれがあるかどうかについての査定がいかに難しいかを雄弁に物語っています。

 そして、裁判所が被告人に有罪を言い渡した理由をこう述べています(以下要約します)。

 HS式高周波器の有害性が問題となるのであって、使い方の如何は関係ないと主張するが、もしこの治療器がそれ自体絶対に人体に有害なものであれば、医師といえどもこれを使用することを許さないのが当然のことで、むしろその有害が相対的な場合、すなわち被療者の体質(禁忌症)、病状または使用方法の如何によっては、危険発生の可能性がある場合に問題が残るのである。

 また、電気・光線を使用する医業類似行為はすべて医療の系列に属するものとして是認したものでないことはもちろんのこと、さらにそれが健康に無害なものとして放任したものではないのである。そして、公共の衛生管理を達成するためには、例えば、あん摩・はり・きゅう、柔道整復の場合におけると同様、人体の生理、病理その他の必要な基礎知識および電気療法についての技術を一定期間修得した者で、所定の試験に合格した者に免許を与え、免許者に限ってこれを施行することを業とすることができるとするのが当然のことであるとし、医学上、科学上の見地から検討して、免許制度に改めることとした趣旨である。

 電気・光線を使用する医業類似行為は、すべて医療の系列に属するものとして是認したものでないことはもちろんのこと。さらにそれが健康に無害なものとして放任したものでないのであると述べています。

 

 しかし、被告人はふたたび事実誤認、医業類似行為の内容が明確でなく罪刑法定主義に反するとして上告します。

 最高裁 昭和39年5月7日 第1小法廷決定

 上告棄却。

本件HS式無熱高周波療法が、公共の福祉に反するものであることを判断するにつき、それが「人の健康に害をおよぼすおそれのあるものであるとした原判決の認定は、挙示の証拠関係により是認し得るところであり、原審における所論各鑑定の取捨、判断に所論のような違法は認められない」として被告人の有罪が決定しました。

        (参考)主文(最一決昭和39年5月7日刑集18巻4号144頁)

 このように、最高裁判決は有罪となりましたが、誤解があり、「人の人体に害が無ければ……」と「職業選択の自由」が一人歩きしています。

参考文献:別冊ジユリスト 154,165,156,157ページ

           判例時報 345号 176,177,178,179ページ

以上

(資料:マッサージの正しい報道のためにより抜粋)


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