書斎に通されました。チコは椅子に腰掛けました。
こんなに 見たこともない難解な本に囲まれるのは初めてのことです。
「眼を瞑ってごらんなさい。それで見えるものが本当なのです。」
両眼を瞑るとあとは想像力だけの世界。
「その日 その時 その場所に立っていることが焦点です。」
ST氏が囁きました。囁きを聞き漏らしてはなりません。
焦点が合ったのは偶然のはずです。
しかし 焦点が合ったのは本当に偶然だったのでしょうか?
求めずして焦点を合わせることができなかった事は確かです。
それでなくては この隔離された場所に訪れる事も見ることも、
出遇うことも絶対になかったでしょう。
他にここを訪れる人の多くは 焦点が合わないままで 合わなくても平気で
合うとか合わないとかさえも 気にすることなく訪れているのです。
それで出遇った気になって帰っていくのです。
「こちらが 合ってないのに会うわけがありません」
またST氏はぼそぼそっと囁きました。