南の島へ(2000.9.3-5)

第2話 南の島の「足」を眺める

読者の皆様はご存知のことと思われるが、沖縄県には鉄道がなく、公共の交通機関は現在(2000年)のところ、路線バスしかない。

沖縄と路線バスと観光客と住民

観光のガイドブック等を見てみると、(特に「ひめゆりの塔」などの南部戦跡方面を中心に)「路線バスは便が少なく、観光には不便」との記述が多くみられる。なるほど、バスは使えないのか、沖縄はクルマ社会だからバスも衰退しているのか、そんな先入観を持って沖縄に来る人も多いと思う。

しかし、市内の目抜き通りを歩いていると、市内線からや高速・長距離線のバスが次から次へと走ってくる。とても「便が少なくて使えない」といった状況ではない。このガイドブックの記述と現実との違いは何か、素人が時刻表と路線図を頼りに、以下のとおり事情を推理してみた。

観光客の大部分はレンタカー・タクシー(いずれも本土に比べると非常に安く利用できる)やオプションツアー・定期観光バス等で移動をする人が多く、路線バスを利用する人は少ない。一方、地域住民の場合、同じ移動でも観光客の移動とは出発点や目的地・経由地が異なる。だから、特に観光客を相手にしたバス路線は流行らず、路線バス自体は頻繁に走っていても、ガイドブック等で「観光には不便」と書かれるのではないだろうか。

逆に、都市間の移動や田舎への直行など、地域住民もよく移動で使うルートを観光で辿る場合、コツさえ覚えれば、路線バスは便が多く結構便利であると思う。

沖縄のバスのコツ

さて、その「コツ」である。「コツ」を覚えないとバスを利用しにくい、というのも改善の予知があるとは思うが・・・ともかくこの3日間で10回以上バスを利用した、筆者なりの「コツ」をこの場で紹介したい。

  1. 行きたい地名を覚えておく。
    お約束。
  2. 乗るときには必ず「手を挙げる」。
    沖縄のバス路線網は複雑で、1つの停留所に様々な行先のバスが来ることはザラ。だから、乗るときはチャンと手を挙げて「乗ります」の意思表示をしないと停まってくれない場合が多い。
  3. バスの路線番号に注意。
    沖縄のバスはほぼ全路線に路線番号が入っており、車体正面と側面に大きく表示している。まず、これを見る。ガイドブック等で事前に予習する場合も、路線番号は要チェック
  4. バスの窓にも経由地が書いてある。
    前面窓上の行先を確認。起点・終点近くでいくつか路線が分かれる場合も多い(例えば、那覇市内の場合、牧志・国際通りを経由するバスとしないバスとがある)ので、前面窓の中に表示してある経由地も要チェックである。
  5. バス会社は気にしなくてもよい
    「どこのバス会社が運行するバスか」は全く注意する必要がない。沖縄にはバス会社が4社あるが、同じ路線・同じ方向でも複数のバス会社が入り乱れて走っている。
  6. 乗るときは前扉から、那覇市内線は200円先払い
    那覇市内線(1〜14、17番のバス)は、運賃200円を先に払う。降りるのは前中後どこの扉でも良い。郊外線(15、20番以降のバス)は最初に整理券を取る。降りるときに運賃を払って前扉から。
  7. これを読んでメンド臭いと思った人は?
    とにかく手を挙げてバスを停めて、運転手に行きたい場所を告げる。乗れとか乗るなとか、どこで降りろとか、相応のアドバイスはしてくれると思います。

那覇のバスターミナル

沖縄県の県庁がある那覇は、県内の路線バスがほぼ一手に集まってくる。それらの発着点が、市街地の南に位置する那覇のバスターミナルである。

筆者の乗ったバスも那覇のバスターミナルに着くが、どうも思っていたのと様子が違う。筆者はバスターミナルというと、鉄道駅と同様に多くの人でごった返して、周囲が繁華街になっていて・・・といったイメージを持っていた。しかし、乗客はまばらだし、ターミナル近くは繁華街というよりも場末の雰囲気に近い。まるで乗客のための「駅」というよりも、バス事業者のための「操車場」である。中央の待機場には何十台ものバスが発車を待っていた。

「730」とその影響

沖縄のバスの話をするうえで「730」とよばれる交通方法変更事業に触れない訳にはいかない。これは、沖縄県の本土復帰にあわせて、昭和53年7月30日、それまで右側通行だった県内の道路を、一斉に本土と同じ左側通行に切り換えたものである。文字通り左右がひっくり返る事態にを前に、当時の関係者の苦労は想像に難くないと思う。

この影響は多方面に及んだ。特に路線バスの場合、右側通行当時に用いられた車両の大部分を買い替える必要があった。昭和53年には各社合わせて1000台近くのバスが一気に導入されているが、その影響が今なお残っている。

「730」に際して一挙に導入されたバス車両も、時間が経てばあちこちガタが出る。それをどうやって新車に取り替えるか?計画的に新車への代替を進めなければならない。しかし、「730」から22年経った現在でも、当時導入されたバス車両が大量に残っている。本土でバス車両を20年以上使っている会社が数えるほどしかないことを考えると、これは結構大変なことである。

それらの車両の取り替えも、ここ数年は新車ではなく大都市で使われた中古バスによって行われている。バス会社の経営が厳しいなか、1台でも多くの車両を取り替える必要があるためであろう。

見て面白い沖縄のバス(注:この節は思いっきり趣味的視点で書かれています)

このように、沖縄のバスは20年前の出来事を未だに引きずっているが、趣味的に見るとこれが結構興味深い。

まず、滅多なことでは乗れなくなった旧型のバスが、まだまだ大量に残っており、しかも現役で走り回っていること。筆者もいろいろ乗り比べてみて、乗り味とか雰囲気とか懐かしい思いをさせてもらった。これらの老朽車、嬉しいことに丁寧な補修・改造を受けて、新車と見まがうくらいピカピカの良い状態で使用されているものが多い。

次に、最近投入が進む中古車。こちらも旧ユーザーの雰囲気がそのまま残っているものから、使わない扉をふさいだり椅子を取り替えたりと珍妙な改造をされたものまで、様々な出自の中古車が様々な改造を受けて走り回っている。

さらに、原形が分からなくなるほどの珍妙な改造を受けて走り回っている車両、長距離線用に投入された観光バスと見まがう路線バス等、興味深い車両も結構いる。

その他、小道具にまで目を向けると、軍用車のようなスプレーとテンプレートで書かれた行先表示、昔の観光バスのような車内に残るアナログ時計など、興味をそそるものは挙げだすとキリがない。

沖縄のバス車両は、旧型車が残り、新型車や中古車が入り乱れて導入されているここ1〜2年がいちばん面白いのではなかろうか。

それで渡辺は結局初日に何をしたか

あらかじめ予約を入れておいたホテルに荷物を預け、カメラ片手にメインストリートの国際通りをひたすら歩く。観光客相手の店が結構多い。大型店はあまり見かけず、小さい店が通りに向かって多数並んでいる。人通りが非常に多い。日本というよりアジア的な雰囲気である。

「奇跡の1マイル」と呼ばれる国際通りは片側1車線。そのうえ多くのバス路線がここを通るため、渋滞が激しい。歩道が比較的広く歩きやすいこともあるが、車で移動するのと歩いて移動するのがほぼ同じくらいの速度である。

それにしても、この暑さはどうだろう。刺すような直射日光を浴びているので、歩いているそばから汗だくになる。「いかにも沖縄」でちょっと嬉しくなるが、歩き詰めではさすがにキツイ。南国シンガポールだったと思うが「歩道の環境を改善して、人が抵抗なく歩ける距離を延ばす」交通政策の話を思いだした。

国際通りの終点、安里交差点からもう少し歩き、今度はバスで一旦バスターミナルの近くまで戻る。然る後、バスターミナルに停っていたもう本土ではめっにた乗れない古いバスに、行先等を適当に見繕って乗り込む。

椅子は背もたれが高く、冷房は適度に効いている。気持ちが良かったのか、慣れない土地での疲れが出たのか、いつの間にか居眠りをしていたようで、乗り過ごして全く勝手の知らないところに出てしまう。適当なところで降りて、すぐに折り返す。

それにしても今日はよく歩いた。万歩計を見ると3万5千歩。足の裏が痛い。

参考にしたリンク

第3話 もう一つの世界・海の底から 

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