じみガシ万歳!



キャンディーマシンの思い出


今から30年程前。
私は両親からクリスマスプレゼントとして
「キャンディーマシン」なる
家庭用の綿菓子製造機(おもちゃ)を買ってもらった。

買ってもらった??

いや、やはり買ってもらったのは確かだ。
ただ、その記憶の輪郭は”限りなく透明に近い”。
私には今ひとつ、
そのキャンディーマシンとやらを買ってもらったという実感が無いのだ。
まぁ、それにはそれなりの理由があるのだが。

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子供の頃、私の家では
クリスマスに何か好きなモノを一品買って貰えるというのが恒例になっていた。
クリスマス間近になると、姉も兄も、もちろん私も
アレコレと悩みに悩みぬいた末、コレという一品を選び出し両親にお願いする。
パーティーなんて一切無し。
買物オンリーの無味乾燥な”ウチ流”クリスマス。
しかし私たち3人きょうだいにとっては
言わば”誕生日”や”夏休み”と同格の
その年を締めくくるスペシャルイベントだった。

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5歳のクリスマス。
私は比較的早いうちから”欲しいもの”が決まっていた。
当時、 ”ままごと界”に大センセーショナルを巻き起こした
魅惑のキッチン玩具、あの「ママレンジ」だ。

♪マァマァレンジ ママレンジ
エプロンつけてクッキング♪

ホットケーキ、本当に焼いてもいいの!?
おもちゃなのに!?

♪マァマァレンジ ママレンジ
アサヒ玩具のママレンジッ♪

決まった。絶対これしかない!
もうこれしか考えられない…はずだったのだが…。

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6才上の姉。3才上の兄。
彼らの無責任な言葉が私の気持ちを大きく揺るがした。

「ママレンジ…あ、あれ?つまんないつまんない」
「だってコマーシャルみたいにホットケーキなんか焼けないんだよ」
(実際は焼けるんだけどね。ホント無責任。)

”つ、つまんない!?”
”ホットケーキが焼けない!?”

当時の私にとって、
きょうだい二人の発する言葉の影響力は多大なものであった。
幼すぎて二人からあまり相手にされていなかったせいなのか、
当時の私はどうも、常に彼らの受けを狙っていた感がある。

そんな多大な影響力を持つ彼らが「つまんない」と言っているのだ。
あれだけ固まっていたママレンジへの気持ちはもうグラグラ。崩壊寸前だった。

そんな気持ちにさらに追い討ちをかけるように
彼らは続けた。

「それより、お祭りみたいな綿菓子、家で作りたくない?」

さよならママレンジ。

こうして私はいつのまにか
「キャンディーマシン」の一オーナーになっていた。

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オーナーになっての感想は?
”いやぁ、お祭りで売ってるのより3倍くらい大きい綿菓子を
家族みんなにつくってあげたいですねぇ。”

今まさに開封されつつあるキャン・マシの箱を目の前にし、
得意そうに綿菓子を家族にふるまう”ちょっとかっこいい”自分の姿を想像しながら
大きな期待に胸をふくらませる新オーナー。

だが、のちに彼女は重大な事実を思い知らされることとなる。
自分がこの後一度もキャンマシ本体に触ることすらできない
とほほなオーナーだということを!

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綿菓子なんて
誰一人まともに出来やしなかった。
父や母ですら
ほんの一握りのポヤポヤっとしたヤツしか出来やしなかった。
ましてや姉や兄なんて。

結局”ヤツ”は
子供に太刀打ちできるような代物じゃなかったのだ。

でも彼女達は作れなかっただけ。作ろうとしたけど失敗しただけ。
私なんて…私なんて…。

なんと私は、
”ヤツ”のオーナーであるにもかかわらず、
作る前段階の割り箸持ってスタンバイすることすら
できなかったのだ!!


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そりゃぁやっても無駄なのはわかってる。
両親ですらうまくできなかったものが
5歳の私にうまくできるわけないのはわかってるさ。
でもちょっとまねだけだってさせてくれたっていいじゃん。
オーナーなんだから。
なのに割り箸すらさわらしてくれないっつうのは
一体どういうことなんだよ!
誰一人まともに作れなかったくせに。
第一あん時綿菓子自体食べたおぼえがないぞ。
まずはオーナーが試食するんじゃないんですかっ?。
綿菓子があんまりうまくできなかったからって
オーナー差し置いて
自分達だけ納得しておわらせるんじゃないっつーのっ!

(す、すみません。取り乱しました(笑)。しかも30年前のことで!)

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その後キャンディーマシンは
手入れも不十分なまま物置の奥へと追いやられ、
後日、何度も私が「綿菓子作って」「作らせて」と懇願しても、
綿菓子が思った程あまりうまくできなかったという理由にすべて却下された。
(結局キャン・マシは10年程放置されたあげく、そのまま処分された。)

その一方で、
キャン・マシを勧めた張本人達は
それぞれ自分が買ってもらったプレゼントを
楽しんでるという事実。

何かおかしい。何か間違っている。
世の中何か間違っいるよ。

幼い心は生まれて初めて
世の中に潜む不条理な現実を目の当たりにし、
もう二度とこんな失敗はするまいと強く心に誓った…。

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実は話はこれで終わったわけではない。
キャンディーマシンの一件は何の教訓にもなってはいなかった。

事実 次のクリスマスもその次のクリスマスも
きょうだい達の言葉に影響されながら、同じ事が繰り返されていったのだ。
「リカちゃん人形」は「シーモンキー」に
「ダリアおしゃれセット」は「人生ゲーム」といった具合に。
(「ニューレーダー作戦ゲーム」なんてのもあったぞ。女の子が普通買うか?)

そんなにまでしてきょうだいに受けたいかコラ。

結局のところ
一番間違ってたのは私だったのかも。