一体何なんだい兄ちゃん。全員店の外に出させてさ。




みなさんに…あの看板を見ていただこうと思って。




えっ?









ざわざわ…

なになに?わかんない?



!!





今まで全く気づかなかった…




えっ?何?お兄ちゃんわかったの?





ほら、良く見ろよ…


えっ?

じーっ





ん?






あっ!!


面白」の文字の後ろに…





「失恋」の文字がっ!!





失恋レストランって…清水健太郎の?
ぽっかりあいた胸の奥につめこむ飯を食べさせる?あれ?



……はい。





はるお…お前…





…あれが私の原点なんです。
すべてがあれから、あの曲から始まっている。






えっ?…何かよくわからねぇ…
もうちょっと詳しく聞かせてくれよ。




「失恋レストラン」で描かれている世界のように
お客さんの失恋話を聞き、そのぽっかりあいた心の穴の大きさに合わせた
食事を提供し、癒してあげることが、私の夢でした。

なぜなら…この曲が、
私が唯一、心から好きだと言えるものだったからです。
親父が歌う…この曲の世界だけが、心の底から信じられるものだったから。


でも、その一方で親父のことを心の底から恨んでる自分がいる。
だから、せっかく書いた「失恋」の文字も、
親父への恨みの気持ちが噴出してきた時に、発作的に
白ペンキで上からバーッと塗り消してしまって。






何日もの間、失恋の文字を書いちゃ消し書いちゃ消しの繰り返しで、
ホントにもう頭がおかしくなりそうだった。


で、結局、失恋レストランはあきらめて…でも他に何をしていいのか全くわからないから、
お客様のご希望やアドバイスをどんどん取り入れて店を作っていったんです。


 



でもそんな店がうまくいくはずもなく、オープンから3ヶ月も経たないうちに、
コンセプトゼロの変な店、みたいな言われ方をするようになって、
客足もどんどん遠のいていってしまった。




ズキン…


何度も頭から排除しようと思ったんです。あの曲のことも親父のことも。
でも、他の曲をいくら聴いても、何を見ても、何をしても、心に全く響かなくて、
結局はあの曲の思い出に浸っている自分に気づかされる。

そんなことの繰り返しで、いつの間にかこんな年になってしまった。
いつまでたっても、がんじがらめ……ここまでくるともう「呪縛」ですよね。ははは。


でも、この前ふと考えたんです。



もうこのことを受け入れてしまうのはどうだろうって。
「失恋レストラン」しかわからない自分を。


きっかけは親父の作ったあのCMを観た時でした。
親父が平ちゃん製麺の社長だと知り、ショックで食事ものどを通らなかった。





親父の奴、なぜこんな大事なことを隠してやがったんだ、って。


親父を憎む気持ちも一気に膨らんで、膨らみすぎて…
なんだろう……一周してゼロになっちゃった感じなんですよね、なんか。




はるお……。


親父を憎悪することにエネルギーを使うことが急にバカバカしくなって。
「失恋レストラン」しかわからないならもうそれでいいや、
店も今から「失恋レストラン」に強引に変えちゃえ変えちゃえ、みたいな。

5円クリームソーダでとにかくまずはお客様を呼んで、
赤字になったら、親父の奴を利用して…なんてね。
親父は昔の後ろめたさから絶対に金を出すだろうと踏んでましたから。



ふぅ~。なるほどね。
…いろいろ複雑な事情があったんだな。

でもだからってビックリッコ草の実を入れちゃいかんでしょ。
それでみんながあんたに相談したり話したがったりしたって、
それは幻想と同じだ。
そんな幻想見て喜んだって、所詮それはあんたの自己満足でしかない。




……。





なかなか的を射たこと言ってるじゃん、あのアージン刑事。
見直したよ、ちょっと。



わかった…じゃぁさぁ、
ビックリッコ草の実をアイスクリームに混入した経緯を

詳しく話してくれるかな。





えっ!!


あ…


えーとそれは…あの…

私、アイスクリームを毎朝作っているんですが…
裏に生えてる草を取ってきて…それで…まぁ…この…

まぁこのぉ…まぁこのぉ…

まぁこのぉ…まぁこのぉ…



くすくす…くすくすくす…


まぁこのぉ…まぁこのぉ…



……。

まぁこのぉ…まぁこのぉ…




ナニ?今、
田中角栄ブームでも来てるの?



…まぁ、いいや。詳しいことは

署の方で聞くからさ。じゃぁ、行こうか。




…はい。




はるちゃん…




…あ、おじさんも一緒に来てもらうよ。




…はい。





まじかよ…これ。まだ信じられねぇ。



おっと、兄ちゃん。

その箱は取ってくれないと困るんだな。
ここではずしてってくれるかい?





!!





…はい。わかりました。




ちょっと待ってぇ~っ!!




ざわざわ…なんだなんだ?




だめぇ~っ!

それ取っちゃだめぇ~っ!




なんだ?あいつ。




おじいさん…



はぁはぁ…

はぁはぁ…だめそれ…取っちゃ…はるさん…
それはワシがはるちゃんを想って作った大切な……


サンタ先生…すみません。
こんなことになってしまって。


先生にはいろいろお世話になったのに。




でもこれ、はずします。

はずさせてください。
すべてを一からやり直すために…


だめぇ~っ!だめぇ~っ!


やり直さなくていい、
はるちゃんはワシがずうっと面倒みるから!!

だからはずしちゃだめぇ~っ!!
絶対だめぇ~っ!!!!


あははは…

それじゃ、昔の親父と一緒じゃないですか。



先生には私の気持ちが通じなかったみたいですね。



あわわ…


…残念です。





はるさん…

ぽろぽろ…




バサッ……





あっ!!!












ドサッ!!





ざわっ…




キャーッ!!



見ちゃだめ~っ!!

私のはるさんなんだからーっ!!

私だけのはるさんなんだからーっ!!!!






あ…











これが…




この人が…





はるちゃん…!!






つづきはこちら。






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